第45話 その点では感謝しかない


「ぶ、無礼者めがっ!! 衛兵っ!! 衛兵はいないのかっ!? この躾のなっていない異国風情の無礼者をひっ捕らえよっ!!」


 そしてシュバルツ殿下は顔を真っ赤にして唾を飛ばしながら衛兵を呼び寄せると、あろうことかソウイチロウ様を捕まえるように言うではないか。


 先程のソウイチロウ様の言葉を理解できているのであれば、そんな事をしても無駄である上に、言葉すら理解できない知能の低いバカというのをここに集まっている貴族達へ自ら言いふらしているようなものではないか。


 そのような事をしては、シュバルツ殿下の派閥にいる者の内弟へと鞍替えする者達も多いだろう。


 だからと言って弟であるカイザル殿下もバカではなので、鞍替えした貴族たちを表向き受け入れはするのだが『何かあれば裏切るもの』として認識されるだろうから鞍替えしたとしても厳しい未来が待っているだろうが『沈む船よりかはマシ』と鞍替えする貴族たちも思っている事だろう。


 そんな事を頭の中で計算しているであろう貴族が、周囲を見渡せばちらほらと目に入ってくる。


 それは言い換えるとシュバルツ殿下の後ろ盾が少なくなり、その分カイザル殿下の後ろ盾が増えるという事でもある為、今かなりヤバい状況だとシュバルツ殿下は気付かないと取り返しのつかない事になるだろう。


 むしろ気付けないからこそ自分の感情の赴くままこのような浅慮な行動を取ってしまうのだろう。


 そして、そのような者に、自分の感情が優先で、その言動によってどのような未来が待ち受けているのかすら考えることができないような者に国を任せたいと思える者はまずいないだろう。


 いるとするならばシュバルツ殿下と同じような考えや知能の持ち主であり、自分の利益の事でしか物事を考えられないような者達であろう。


 そして当然、周囲はそのようなレッテルを貼るし、カイザル殿下サイドもそのような評価を下すであろう。


 逆に言えばここでカイザル殿下を裏切る者は自らの保身という理由の方が大きいだろうが、裏切りはするが少なからず愛国心があるとも考えられる為、選んだ方のメリットは一旦置いておいてデメリットだけで考えるのならばどちらが良いかは火を見るよりも明らかである。


 あぁ、わたくしはこのような者に婚約破棄をされたのか……。


 そう思うとやるせない気持ちになるのだけれども、このままシュバルツ殿下へ嫁いだ未来を想像するとゾッとする為、その点では感謝しかない。


「俺がさっき言った事が理解できないのかい? 俺は貴族でシュバルツ殿下はまだ即位していない以上衛兵がシュバルツ殿下の命令で俺を捕まえる事など出来るわけが無い。もしそのような、権利の無い者が私的感情で権力を行使した場合は、その事実を国王陛下へ進言し、その者とこの場にいた衛兵を裁いてもらうだけだ」


 

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