第29話 目的の寿司屋
それだけでも信じられないのだが、敷地の外に出ると同じように馬無しで動く馬車がそこらかしこで走っているではないか。
恐らくこの馬車は魔力を動力として走っている魔道具の類であるのだろうが、だからこそこの国の軍事力等は帝国と比べて桁違いである事が窺えて来る。
その事からも恐らくソウイチロウ様は帝国と『にっぽん』との繋がりを作り敵対する事を回避するという帝国の狙いが透けて見え。だからこそわたくしはシノミヤ家に嫁ぐとなった時に皇帝陛下は何も言って来なかったのだろうし、帝国側からすれば表向きは公爵家の娘を嫁がせるのだから渡りに船であった事だろう。
「さぁ、目的の寿司屋に着いたようだ」
そんな事を思いながら窓際の席で外の世界を眺めていると目的の場所に着いたようで、ソウイチロウ様が手を差し伸べて来てくれる。
ただこれだけの事で、今まで考えていた事などどうでも良いと思えるくらいに胸が高鳴るのだから、それが何だかおかしく思えて来て、心の中で笑ってしまう。
もうわたくしはシュバルツ殿下の婚約者ではなくソウイチロウ様の妻なのだ。
帝国がどうのだとか、嫁いだからには帝国に不利益にならないようにしなければとか、そんな事を考える必要はもうないだろう。
むしろ何故あんな扱いをされたにも関わらず、尚も帝国の事を考えて行動をしなければならないのか。
そもそもの話、わたくしはシノミヤ家に嫁いだのだから、帝国の為に動くなど言語道断。
これからのわたくしはシノミヤ家の為に動くのが筋というものであろう。
そしてわたくしは差し伸ばされたソウイチロウ様の手を取り、馬車から下りる。
◆
「何か食べたいものはあるか? って、食べたいものも何も、そもそも食べた事が無いのか。であれば大将……シェフのおすすめがセットになっているものでも良いか?」
「えぇ、かまいませんわ」
店の中に入ると、そこは異国情緒あふれる作りになっており、そのままテーブル席にソウイチロウ様と一緒に座る。
因み一番奥の席にソウイチロウ様で、その隣にわたくし、向かい側は奥からミヤーコにアンナである。
「私はとりあえずイクラと大トロとウニッ!! 後のどぐろがあればのどぐろっ!!」
「では、私はアジと卵に本マグロの赤身、赤だしと茶碗蒸しを」
席に着くとソウイチロウ様が食べたいものを聞いてくれるのだが当然分かるわけもなくそのままソウイチロウ様が進めてくれたシェフのおすすめで良いだろう。
そして数分後、注文した料理が運ばれて来るのだが、やはりというか何というか、どう見てもご飯の上に生の魚の身が乗っているだけの料理が運ばれて来る。
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