第26話 日課

 


 そして毎晩布団の中であの時の事を思い出しては一人顔を赤くしているのだけれども、わたくしは今まで『お忙しい故にたまたまソウイチロウ様はわたくしを求めていないだけである』『ソウイチロウ様が来ないのは、わたくしに魅力がないからではない筈だ』と言い訳を並べ、敢えてその事については考えないようにしていたのだけれども、日数が過ぎていく度に不安になっていく。


 そもそも貴族の務めというのは、国から任された領地の経営は勿論、国の主導者として法律を作り、政治を司り、軍隊を指揮する等々あるのだけれども、その中でも一番重要な仕事というものの中に『跡継ぎを産み次代に継がせる』というものがある。


 勿論わたくしも男爵家に嫁ぐという事は、その貴族としての務めをする覚悟を持ってここシノミヤ家に来ており、確かに当初こそ不安ではあったもののソウイチロウ様の人となりを知っていく度に覚悟は勿論の事ある種の期待を抱き始めているのもまた事実である。


 だからこそ、シノミヤ家に嫁ぎに来て約一週間そのような事が一度もないと言うのはどういう事なのだろうか?


 もしかしたらわたくしに女性としての魅力が無いだろうか?


 いやでも、確かにあの時ソウイチロウ様の故郷の伝統的な衣装に身を包んだ時は褒めてくださった筈である。


 そう思い、わたくしに魅力がない可能性については考えないようにして過ごしてきた。


 しかしながら他、わたくしよりも先に嫁いで行った年上のお姉さま方は一年後には玉のような赤子を産んでらっしゃったところから見ても嫁いで直ぐにそういう行為をしているという事であり…………。


 ここ最近、やっと環境にもなれてきて婚約破棄による精神的なストレスもだいぶマシになって来たというのに、ここにきて新たな不安がストレスとなってわたくしにのしかかってき始めている。


 せめてキスの一つでもしていただければ安心しますのに……。あっ、そんな事……ここでだなんて、いけませんわっ!!


 とりあえず日課というか最早趣味となり始めている妄想をしていると、ノックが聞こえて来た気がしたので反射で返事をしてしまう。


「失礼します……って、あら顔が真っ赤じゃないですか。体調が悪いのでしたら本日はお休みになられますか?」

「あ、えっと、だ、大丈夫ですわっ!!」

「そうですか。それならよかったです。ですが無理はしないでくださいね? あと、何か相談事があればいつでも相談にのりますので奥方様だけで抱え込まずに気軽に話してくださいね?」

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