第6話 一目惚れ
この時わたくしは生まれて初めて『一目惚れ』をしたのである。
それはわたくしにとって衝撃的な体験であった。
そして今までわたくしがシュバルツ殿下に抱いていた感情は、義務感から来るものであり、決してシュバルツ殿下の事を好いていたという訳ではないという事を、同時に知った。
しかしながらこれら感情は婚約破棄をされなければ知る事のできなかった感情であり、なんだか複雑な気分である。
「ほら、しっかりと読んでくださいなっ!! 今すぐっ!!」
そして、わたくしがこんな状況になっていると気付いていないミヤーコは、ラインハルト陛下から送られてきた手紙を、ソウイチロウ・シノミヤへため息交じりに今すぐ読むように言いながら、押し付けるようにして手紙を押し付ける。
「まったく、分かった分かった。読めばいいんだろ? 読めば………」
ミヤーコから手紙を渡されたソウイチロウ・シノミヤは、目上の者に対して失礼だと怒鳴ったりするわけでもなく、素直に手紙を受け取ると、それを読み始めるではないか。
これがわたくしのお父様であったら間違いなくミヤーコを怒鳴りつけた上で屋敷から追い出していただろう。
その光景からみても、やはり噂は噂でしかなく、本当は真逆の人物なのではなかろうか? とわたくしは思い始める。
もしかしたらラインハルト陛下と仲が良いソウイチロウ・シノミヤに対して嫉妬を持った貴族連中が流したデマである可能性が高いのではないか?
そんな事を思いながらわたくしは、ソウイチロウ・シノミヤ様の事を『まつ毛が長いですわね……』なんて思いながら見ていると、ソウイチロウ・シノミヤ様の顔はみるみる青ざめていくではないか。
「な、何だこれは……っ!? 『公爵家の娘を娶る事』『反論がある場合は三日以内に即達便で返事を送る事』『反論が無い場合は公爵家の娘を娶る事に了承したものと判断する』『追伸:普段からちゃんと手紙を読んで返事を返していればこうはならなかったのう。では、新婚生活を楽しむことじゃ』……だと? ふざけやがってっ!! こんな詐欺まがいの婚姻など無効だ無効っ!!」
「失礼ですが旦那さま、手紙にはしっかりと『反論があるならば返事をするように』と記載している上に、現にこうして遠路はるばる旦那様の元へと嫁ぎにシャーリー様がいらっしゃるので、もう既に無効には出来ないレベルで物事が進んでおります。 私も『今回の手紙は絶対に読んだ方が良いです』と口酸っぱく進言しましたので、読まなかった旦那様の落ち度かと……」
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