第5話 内容がまったく耳に入って来なかった


 その魔道具だけではなく、建物に使われている素材なども見たことない素材で作られている事は一目瞭然である上に、そもそも外見からして見たことない建物であるのだが、室内もやはり見たことないような作りになっているではないか。


 そんな室内をわたくしは物珍し気に眺めながらミヤーコについていくと、とある部屋の前で止まり、扉を三回ノックする。


「入れ」


 すると中から男性の低い声で入室を許可する返事が返って来る。


 その返事を聞いたミヤーコは躊躇うことなく扉を開け、中へと入っていくのでわたくしもミヤーコの後に続いて中へと入る。


「し、失礼します……っ」


 いった、あの悪名高い噂の人物であるソウイチロウ・シノミヤという者はいったいどんな顔をした人物なのだろうか?


 オークのような見た目であろうか? それともゴブリンのような見た目であろうか?


 そう思いながらわたくしは声の主であり、わたくしの旦那様となる相手の顔へと目線を向ける。


「うん……? 誰だ? この娘は?」

「あら、旦那様は国王陛下からのお手紙を読んでいらっしゃらないのですか?」

「あ? そんなもの、どうせいつもの『遊びに行くから色々余を楽しませる物や美味しい食べ物を用意しておけ』とかいう内容だろうから読んでないぞ? 最近のアイツは最後の物語シリーズに竜の物語シリーズにハマっているから前回プレイした作品の次の物を既に用意しているし、美味い物を用意しろったって、どうせいつも通りラーメンか何かだろう」

「はぁ~……。旦那様は、仕事はできるのにどうしてこう、肝心なところでいつもいつも抜けているのでしょう……。 残念ながら今回は『どうせアイツはちゃんと手紙を読まないだろうからメイドのミヤーコにも、万が一手紙を読まなかった時を考えて同じ内容の手紙を送る』と私にも手紙を送ってきた国王陛下のほうが一枚上手でしたね……」

「は? おれがあのおいぼれジジイよりもポンコツだと言いたいのか?」

「残念ながら、今回の件に関しましては間違いなく旦那様は言い逃れができないくらいにはポンコツでらっしゃいます」


 そして、男性とミヤーコは言い合いをし始めるのだが、わたくしはその内容がまったく耳に入って来なかった。


 そう、わたくしは目の前の男性の美しさに目を奪われてしまったのだ。


 この国では珍しい黒髪を、これまた男性には珍しく長髪にしており、後ろに縛っているのだが、その黒髪はまるで黒曜石のように黒く輝き、その宝石のように美しい髪の持ち主の顔は、やはりというかなんというかこの国ではあまり見ない顔の作りであり異国の者であると言われた方がしっくりくる顔立ちをしており、そして中性的で長い髪もあいまって女性と間違いそうになるのだが、彼の発する低い声が男性である事を窺わせる。

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