第4話 普通ではない事が窺えてくる


 長旅の疲れとタリム領の街並みで忘れていたのだけれどわたくしの旦那様はあの・・ソウイチロウ・シノミヤなのである。


 とんでもない噂しかないソウイチロウ・シノミヤという人物は、一体どんな人物なのであろうか?


 やはり噂通り太っていて、顔と髪は油でギトギトしており、その肌は荒れて凸凹。そして性欲が強く、感情のままに怒鳴りつけ、欲望のままに動く……そのような人物。


 想像しただけで今すぐにでも逃げ出したいと思ってしまうのだが、逃げるとしてもどこに逃げれば良いのか? という問題と、逃げたくないというほんの少しだけ残ったプライドがわたくしに『逃げてなるものか』と思わせる。


 どうせならばソウイチロウ・シノミヤをわたくしにメロメロにさせて操り、わたくしを裏切った奴らに嫌がらせの一つでもやってやろう。


 そう思えば、むしろ受けて立とうという気にもなる。


「あ、ほらっ! 見えてきましたよ。あそこがシノミヤ様が住んでいらっしゃるお屋敷ですよ」


 そう言われてわたくしは馬車の中から窓の外をのぞき込むと、そこには黒いレンガを屋根に敷き詰めた観た事も無い屋敷が視界に映るではないか。


 この屋敷だけでソウイチロウ・シノミヤが普通ではないという事が伝わってくる。


「いらっしゃいませ、シャーリー様。わたくしは四宮家に仕えておりますメイドのミヤーコでございます。早速ではありますが旦那様がお待ちしておりますので案内をさせていただきます」


 そして、馬車から降りるとこれまた見た事も無い服を着た、シノミヤ家のメイドだと言う猫耳の女性が出迎えてくれ、わたくしをソウイチロウ・シノミヤの待つ部屋へと案内してくれるとの事なので、わたくしはその言葉に従ってミヤーコの後ろをついて歩いていく。


「この敷地内にある建物全て土足厳禁でございますので、玄関でかならず靴を脱ぎ、室内用のスリッパへとお手数をおかけしますが履き替えていただきますよう、何卒宜しくお願いいたします」

「わ、わかりましたわ」


 そして、土足厳禁という事に珍しさも相まって驚きはするものの、反抗する意味もないのでわたくしは素直に従って、玄関で靴を脱ぎ、スリッパへと履き替え中へと入るのだが、一歩入っただけでこの家が普通ではない事が窺えてくる。


 それは外見同様に内装も普通とは違う作りになっているのだが、そういうところではなく、例えば天井で真っ白に輝いている魔道具一つとっても、それがとんでもない高級品である事は間違いないだろう。

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