第3話 楽しむ余裕は無くなってしまう
そんな事を思った所で、もうどうしようもない。終わった事の話である。
そう、わたくしは端的にいうと権力争い(妃争奪戦)に負けたのだ。
幼いころからシュバルツ殿下の婚約者として過ごしていたせいで油断していたのだ。
そのポジションを虎視眈々と狙っていたアイリスに足元を掬われてしまった、ただそれだけである。
そう思い、冷静にいようと思うのだが、今まで国の妃となるべく受けてきた全ての努力が無駄になる事や、わたくしに向けていたシュバルツ殿下の笑顔は偽りだったのだと思うと『ただそれだけ』で終わらせられる訳がなく、わたくしは馬車の中で子供のように泣き叫ぶのであった。
◆
そして、わたくしを乗せた馬車は一週間ほどでわたくしの旦那様が収めている領地、タリム領へと到着した。
そのタリム領の最初の印象なのだが『綺麗』その一言に尽きる。
ゴミ一つ落ちてない街並み、レンガで整備された道路、そして恐らく観た感じ上下水道もちゃんとあるのだろう。
これほど整った街並みは王都位なものであると思っていたので正直かなり驚いている。
山と湿地に阻まれ、かなり迂回しないとタリム領へと行く事ができないのだが、逆にその立地だからからこそタリム領への情報は王都まで届いていなかったのだろう。
タリム領は以前から陸の孤島と言われ、商人ですら行くのを躊躇う程である為猶更であろう。
「す、凄い……」
「そうでしょう。正直言ってここタリム領は、町は綺麗、治安は良し、食べ物になると王宮の料理よりも美味いほどの町ですからね。ちなみにタリム領については国王陛下から『情報は外には出さぬよう』と言われているからなかなか他の領地や王都まで情報が流れてくることは無い、まさに知る人ぞ知るオアシスになっているというわけです」
わたくしの口から思わず漏れた言葉が聞こえたのか、何故か国王陛下が用意してくれた御者が答えてくれる。
当初ラインハルト国王陛下にすら、シュバルツ殿下やアイリスの嘘に騙されて、御者を寄こして来たのだと思っていたのだが、どうやらそうではないらしい。
「さて、もうすぐで旦那様が住んでいるお屋敷が見えてきますよ。長旅お疲れ様でした」
なんだかんだでタリム領の街並みに見とれて眺めていると、御者の言葉により一気にわたくしは現実に引き戻される。
そうだ。わたくしはタリム領へ観光に来たわけではなく、ここの領主に嫁ぎに来たのだ。
その事を思い出すと一気に緊張してきて景色を楽しむ余裕は無くなってしまう。
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