花火の亡霊と残響

花火の中の記憶

ドォーン、ドォーン、と音がした。

朝からずぅーと死人のように寝てた俺は、驚いてたまらず飛び起きた。暗い部屋のなか、まだ寝起きで慣れない目で辺りを見渡し、カーテンを開ける。するとキラキラと華やかに夜空に花が咲いていた。

花火だ。

ドォーン、という音は止まず、夜空の花は咲き乱れていた。思わず見とれてしまうほどに。

五分くらいだろうか。窓の前に正座で座ってぼーっと、うつらうつらしながら見ていた。だんだんと寝ぼけて靄のかかった頭の中がはっきりとしてきた。そして気づいた。

「あぁ。そうか。夏だ、夏休みが来たんだ、、、。」

高校に入学して一度も学校に行っていなかった俺、鴉羽満は、季節や学校関連のことは頭に無かった。いや、頭に入れたくなかった。

中学時代に部活内でいじめにあった満は、それ以降学校に行かず、高校に入ったのも飾りみたいなものだった。だけど、俺にはもう一つ、トラウマがある。

目の前で人が死ぬところを見たことはあるだろうか?

俺は、見たことがある。あのときは、暑い暑い夏の日で、花火を一緒に観に行った。花火大会が終わって、海が見える場所で話していたら、、、。

落ちていった。彼女は崖から飛び降りた。さよならと残して。

それから俺は、外に出なくなり、社会と関わらなくなった。それを今、思い出した。その時も、今も、花火の残響が残っている。

だけど。

まさかこの夏休みで、再び彼女に会うなんて、思いもしなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

花火の亡霊と残響 @yugitora

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ