泡沫のフィルム

一面に広がるひまわり畑。


太陽の光でキラキラ輝く青い海。


時期の暑さを告げる蝉の声。


『ソウタくんー!』


そして彼女は_______




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季節は夏、


今年もまた暑く儚い時期がやってきた。


学校が終わり、帰る途中の電車で


懐かしい夢を見た。


ひまわりの造花をつけた麦わら帽子に


白いワンピースの少女で、


名前も思い出せないほどに、


自分が小さい時の記憶。


ハッと目が覚めた時に、


家から近い駅に着く直前で


結構焦ったが、すぐに先ほどの夢を遡った。


青い空に映える黒い長い髪で、


白い肌の女の子。


あれが俺の初恋だったかなぁと


想いを巡らせていたら駅に着いたので、


自分はさっさと降りて真夏の日差しを


身に浴びた。


俺は海に面している路線電車の駅に近い家に


祖父と暮らしている。


母さんと父さんは昔交通事故で亡くなった。


俺もその車に乗ってたけど、小さかったからか


潰れた車の間からすぐに助けられたが、


母さん達はぶつかってきた車で即死。


小学5年生の夏、


じいちゃん家へ向かう途中だった。


頭をかなりぶつけた俺は少し入院をした後に


じいちゃんに引き取られた。


生活に支障はなかったけど記憶が所々曖昧な


感じになっていて、昔の出来事を


あまり思い出せないようになっていた。


さっきの夢も思い出なのかただの夢なのか


わからない、白昼夢に感情が浸っていた。


毎年夏休みが始まる時期になると、


こんな風に感傷に浸ってしまって


無性にトマトが食べたくなる。


なんでだろうな、俺トマト嫌いなのに。


そんなこんな歩いていたら、じいちゃん家の


玄関前に着いていた。


ぼーっと歩いてたのに、よく事故起こさずに 


これたな俺。


まあいいや暑いしさっさと入ろうかな、


そう思い、俺は古くて建て付けの悪い引き戸を


開けて入った。


「ただいまー。」


「おう、おかえり。」


「じいちゃん俺、コンビニでアイス

 買ってくるわ」


「気ぃつけていってこい。」


「ありがと、じゃあいってくるわ。」


俺はカバンを玄関に置くと、


財布を持って自転車へと乗ろうとした。


すると、反対側の歩道で見覚えのある


黒い長い髪にひまわりのイヤリングをつけて


白っぽいクリーム色のワンピースを着た、


電車で見た夢の少女とよく似た女性が


歩いていた。


俺は目を見開いて、その場から一歩も動けず、


記憶が一気に溢れ出てきた。


7年前の小学3年生夏、


カナデという女の子の家族がじいちゃん家の


近くに越してきた。


歳も近かった俺らは、夏休みの間に


たくさん海や川へと遊びに行って、


母さんや父さんに心配をされた。


じいちゃんが畑で作ったトマトをカナデが


美味しそうに頬張っているのを見て、


俺も一緒になって食べたり、


カナデの好きなひまわりや


貝殻を集めて持って帰ったりと、


青い空にかかる夕陽の美しさまでも


俺は思い出した。


カナデに好意を寄せていたのも。


そして事故が起きる前の年の夏休み、


カナデに来年は花火をやろうと


約束をしたのを


俺はずっと果たせていなかった。


ごめん、カナデ、


俺は記憶の混沌から解放された。


「カナd、


「カナデ!」


俺の声をかき消すように後ろから声がした。


カナデは立ち止まり振り返ったが、


こちらを見向きもしなかった。


「遅いよ、ミアくん」


と笑顔で声の主の方を眺めた。


刹那、遠くで蝉の鳴き声が響いている。



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