祝言


拝啓


親愛なるあなたへ




あなたが願っていた事が叶ったと聞き、

この手紙を綴ることにしました。


私とあなたの思い出話ばかりだけど、

許して欲しいな。


最初に初めて会ったのは高校生の時だよね。

あの時は私達に何も共通する趣味や好きな事も

なかったから、高校2年生の夏まで話した事が

ほとんどなかったよね笑


高校2年生の夏休みの時に学校の補習がある日に

あなたが花壇に水を丁寧に撒いているところを

見て、私は優しくて真面目な人だなぁと感じた

のを覚えています。


その次の日にあなたが同じ花壇で、また水を

丁寧に撒いている時に私が話しかけたのを

話の内容まできっちり覚えています。


話しかけた時にあなたは、戸惑いながらも

笑顔で話を繋げようとしていたのが

微笑ましくてとても穏やかな時間だったのを

今でも忘れられません。


次は高校3年生の時に同じクラスになって、

ようやくあなたの名前を知りました。


優しいあなたにぴったりな名前で、

親御さんの教育の良さがわかるような、

行動や発言を誰にでも

同じ接し方をしていたのが素敵だったと

今でも思うの。


そこから受験の時期に入って、

あなたに勉強を教えて欲しいと頼んだ私の

お願いを笑顔で快く引き受けてくれたよね。


でも今だから言えるけど、私実は学年10位内に

入る成績だったのよ笑


あなたの事が好きだとわかって、

あなたに勉強を教えて欲しくて、

私はあの時成績がバレないか焦りながら

頼んだのよね...笑

そんなあなたが少し驚いた顔をして願いを

受けてくれたのを見ると、成績の事はバレバレ

だったみたいね笑



次は大学生の思い出だけど、

私が他県の大学へ行ったから

あまり会えなくてすごく寂しかった。


でもあなたは、付き合ってもいない私に

連絡をこまめにいれてくれて、時間があえば

どこかへ出かける約束までもしてくれた。


そんなあなたに冷める事なく、

私はずっと甘くて底のない不思議な気持ちに

沈んでいたのが懐かしく思えるの。


息ができても、光が見えない

薄暗い深海の魚の様に私はずっとずっと。


それから1年後の大学2年生の頃、

あなたからこう言ってくれたね。


「私とお付き合いしてください!」と

大きくも小さくもない、少し緊張した声で

私を見つめながら。


そんなあなたに対して

私の答えは何年も前から決まってた、


「はい」と私は一言震える声で伝えたんだ。



それから3年が経ち、

私達の婚姻が間近な時期に事件が起きたよね。


そう。あなたは世間、いや社会によって

生きる希望を見失った。


優しすぎるあなたは社会という空間には

格好の餌食だったのでしょう、

いつも会う時には顔色が悪くても笑顔で

私を気遣ってくれるあなたしか見てなかった。


私は愚かだった。

あなたの変化に気付いていたのに

何も深追いをせずに、

1日1日を過ごしていったのだから。

そこで深追いをしていれば、

何かが変わっていたのでしょうか。

あなたは私に話してくれたのでしょうか。

あなたは私の前で涙を

落としてくれたのでしょうか。


こんな事をあなたに直接ではなく、

紙で一方的に綴る私を許してください。


そして明日、あなたは

いよいよ天へと昇りますね。


あなたは私ではなく、親友である奏太さんに

命を落とそうか、と話をしたのを聞きました。


私に心配をかけないようにと、

あえて奏太さんに相談したのだと思うと、

あなたの優しさに憎しみさえ覚えそうです。


私からは

あなたがずっと命を絶つのを願っていて、

それを叶えた事に祝言としてこの手紙を

綴ります。




私はあなたをいつまでも愛しています。






追伸


置いて、行かないで






あなたに惚れた者より

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