第13話
姫の一行は西へと進んでいく。途中、魔物に襲われることがあった。
オオカミのような巨大な犬だ。身の丈は仰ぎ見るしかない。それが隊列の近くでうなっている。
だが、攻撃はしてこなかった。理由は姫が殺気を放っているからだ。
あまりにも鋭く痛い殺気は凛音でも身を引くぐらいだった。
凛音は一刻も早く、終わらせたいために前に出た。
そして、火の玉を出現させて一つにまとめた。その大きな火炎の弾は青白く色が変わり凶暴な熱を放ち始めた。
凛音はその球を龍の形にして身の回りに這わす。
巨大な犬が身を微かに引いた時、青白い火の龍を放った。
胸に飛び込んだ龍はそのまま胴体を焼いて穴を開けた。
凛音は龍を操り頭を喰らわせた。すると、頭の半分がなくなった。
「よくやった」
天耳通に姫の声が聞こえた。
護衛人たちは安堵したのか、肩の力が抜けている。地面に座り込んでいる者もいた。
「こちらへ」
姫に呼ばれて牛車に近寄った。
「おぬしは五行では火の生まれか?」
姫にきかれた。
凛音は思ってもみないことをきかれた。しかし、姫の推測は当たっていた。
「それなら、わしが徳を授ける。水の力も使ってみせよ」
「姫様。下賤な者に姿を見せてはなりませぬ。それどころか徳まで授けるとは」
お付きの里弦はいった。
「構わぬ。この身を見られても減るものはない。おぬしだって見ておろう?」
「それは私の役目ゆえに仕方なくです」
「見るに堪えない
「そのようなことはありませぬ。人間の目には美しすぎて邪な目で見るものもいます」
「凛音が邪な目で見ると思うか?」
「それは……」
里弦が視線を投げてよこした。
凛音は首をかしげるだけだった。
「凛音。かごの前板に座れ」
凛音は姫に後ろを見せることになる。だが、素直に従った。
「みすを上げる。付き人は布で隠せ」
里弦はいった。
今まで隠れていた女官たちが出てきた。そして、布を掲げて凛音の周りを取り囲んだ。
ザッと背後のみすが上がった音がした。
凛音は背後を見た。
そこには美しくも愛らしい女性がいた。
「わしの顔を見るのは二度目と思ったが?」
「申し訳ありません」
凛音はつい恥ずかしくなって謝った。
「気にするな。顔など気分次第でいくらでも変えられる。それゆえ本質をとらえよ。おぬしは抜けておるからな」
凛音は心外だった。抜けているとは初めていわれた。失敗は多いが準備不足だと思っている。
「それも、おぬしの長所であり短所だ。多少の可愛げがないとつまらん」
凛音は理解できない。間抜けがいい思いをするとは思えないからだ。
「目を閉じよ」
姫にいわれた通り目を閉じた。
凛音は額の中央に違和感を感じた。姫が指で押しているようだ。
「よし。これで、水も火と同じように使える」
ザッと音がして姫はみすの向こうに隠れたようだ。
凛音は目を開ける。体にも頭にも変化はない。
「なぜ、火と水を同じように扱えないとならないのですか?」
凛音は疑問をぶつけた。
「それは、いずれわかる。色々と試してみるがいい。面白いことができるようになるぞ」
姫は楽しそうにしている。
結果を知っているが、教えてくれないようだ。
凛音は独学で進んできた。だから、少ない手がかりで探るのは当たり前の行動だったので、姫のお遊びの付き合をすることにした。
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