第11話

 天眼通で見ると三羽いる。どれも大きな鳥のようだ。その鳥たちが滑空飛行へと入った。

 凛音はあわてて飛び上がり、火の玉を二十ほど体の周りに展開する。

 大きく黒い鳥は滑るように近づいてくる。

 速いが凛音の天眼通で姿は観察する。

 魔物はサルの頭に黒いカラスの胴体。羽はコウモリで尻尾はネズミのようだった。

 展開した火の玉の温度を上げて射程距離に入った魔物に放った。

 狙いをあいまいにした面での攻撃だ。魔物の体に簡単に当たった。魔物は体を穴だらけにして、足元を通り過ぎた。そして、墜落して、木を押し倒し、地面を傷つけながら転がった。

 凛音はそれでも警戒は解かない。まだ、気配がある。生きているのだ。

 一羽の魔物が体を起こした。そして、呪うかのようにギギッとうなった。

 凛音は射出と同時に展開した次弾を魔物に向かって放った。

 魔物は避けることもできずに穴だらけになりゆっくりと倒れた。

『おおー』

 雄叫びが上がった。

 下を見ると、皆は弓矢や剣を掴んでいた。だが、彼らが戦う前に倒してしまったようだ。

「魔物は生きているか?」

 里弦はいった。

「いえ。気配が消えました。死んでいると思います」

 凛音はゆっくり地面に降りていった。

「ご苦労だった」

 姫の言葉が聞こえた。

「いえ。姫様のお言葉があったので助かりました」

「なら、まだまだだな。精進が足りない」

「はい。そうですね」

 凛音は苦笑した。

 里弦は何のことを言っているのかわからず、姫と凛音を見比べていた。

 凛音は姫と話している最中に、複数の視線を感じていた。振り向けばお供や護衛が凛音を見ていた。

 凛音は首をかしげる。

「あやつ等の気持ちに答えい」

 姫はいった。

 凛音は牛車を離れて、お供の者たちのところに歩いていく。すると、甲冑を着た男に抱きしめられた。

 甲冑のごつごつが痛い。しかし、男は喜んでいた。

 凛音はこの世界では当たり前の出来事ととらえていた。しかし、違うらしい。ケガ人を出さないだけで奇跡らしかった。

 皆に受け入れられたが、何かむずがゆい。テレがあるのはわかっている。だが、素直に向けてくる感情を受け止めるには、うれしくも恥ずかしもあった。


 その日、町に着くと、姫は変わらず町長の館に泊まるようだ。

 凛音たち、護衛や荷物持ちは町の宿舎に泊まった。

「食え、食え。そんなにひょろっとしていると女子に間違われるぞ」

 部隊長が凛音に酒を進める。

 しかし、凛音は飲まなかった。隙を見せたくなかったし、酒は匂いからして苦手だった。特にアルコールの匂いが嫌いだった。

「酒が飲めないと、人生の半分の楽しみを失くしているぞ」

 凛音はアルコール中毒で、手の震えが止まらない近所のおじさんを思い出した。

 酒で失敗はしたくない。

 凛音は丁重に断った。

「それより、桃を取りに行くようだな」

 部隊長の彼の耳には入っていたようだ。

「ええ。必要なので」

 お膳に乗っている魚の身を食べながらいった。

「西王母の桃は寿命を伸ばすらしいな。でも、この世界にはないぞ。仙境ではないからな」

 部隊長は顔を赤くしながらも冷静な目をしていた。

「ええ。自分が欲しいのは黄泉への道をふさいでいる桃です」

「おいおい。あそこは姫様でも、上位の神の許可を取らなければ行けない場所だぞ。それに長年、封鎖している。人間の身では見ることすらできないぞ。何を期待しているのか知らないがやめとけ」

「ですが、必要なんです」

「黄泉のモノを食い止める桃だ。それなりの力はあるだろう。しかし、黄泉の国の穢れで食べれるとは思えないぞ」

「それは見てみないとわかりません」

「どういう情報を得たのか知らないが、情報が正しいか調べた方がいい。神の怒りを買うだけだ。姫様はお優しいから何も言わないが、普通の神なら怒って天罰を喰らわせられるぞ」

 現世にいた時に入って来た情報とは確かに違った。桃には穢れを祓う力があり、実には万病を治すと聞いていた。

「例え求める物と違っても確認しなければあきらめられません」

 凛音はガマンするように茶碗に目を落とした。

「おい」

 部隊長に酒の入った壺を目の前に出された。

 酒を注げということだろう。

 部隊長なら隊では偉い人間だ。一人、手酌てじゃくで飲んでいるのは滅多にないはずだ。

 壺を受け取って部隊長の杯に酒を注いだ。

 部隊長は満足そうに微笑んで一気に一口で飲んだ。

「お前も飲め。辛気臭い顔をする時間ではないぞ」

「はい。ですが、お酒は飲めません。舌が拒否します」

 凛音は部隊長の不器用な慰めに微笑んだ。

「ふむ。オレは宮本助則みやもとすけのりだ。名前を憶えておけ。姓のある人間だ。庶民とは違って地位がある。大した家ではないが、オレの名前を出せば飯ぐらい食わせてくれる」

「ありがとうございます。その時はお世話になります」

「なら、酒を注げ。なくなった」

 宮本の不器用な親切に凛音は内心で微笑みながら酒を注いだ。

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