第4話
前世の市郎の家には二泊もしてしまった。それだけ話したいことときかれることが多かった。
前世の自分、来世の自分。どちらも興味は尽きなかった。
だが、市郎の家人はいぶかしがった。
ネットで知り合った中学生が高齢者と話し込んでいる。本当なら話などすぐに尽きる。そのはずだった。しかし、おじいさんの市郎と話し込んでいる。
凛音は話すことは多すぎた。来世を気にする市郎には当然な感情だろう。だが、今も過去も自分だ。あっさりしている性格も似ていた。
「お邪魔しました」
市郎の娘という富子にあいさつして去った。富子は嫌がるのではなく探るように質問されるが、市郎と決めていた設定で話をはぐらせた。よほど、不審に思われているようだった。
帰りの電車の車内から外を見る。緑が多くて爽やかな気にさせてくれる。
凛音は欠けた知識を手に入れ、頭の中で修行の内容を構築する。あちらの世界に行くにはまだ時間がかかるようだ。しかし、前世の修行を引き継いでいる。短い時間で終わるだろう。だが、中学校の在学中には終わらないと覚悟をした。それだけ、市郎とは行の進み具合が違ったからだ。
凛音は高校一年生の夏休みになった。
もう、修行は終えている。いつでも、あちらの世界に行けるようになった。しかし、あちらの世界に行くにも、引き止める気がかりがあった。
家族だ。母や父。何よりも幼い妹が気になった。
妹の
凛音は夕陽を邪険にできずに可愛がってしまった。凛音は消える人間だ。情は薄い方がよかった。
妹はまだ物心がついていない歳だ。凛音は消えるには早い方がいいと思った。
高校の夏休みにあちらの世界に移動する用意をした。
もちろん、凛音の存在は消える。それに、凛音は皆の記憶から消えるように術を編んだ。
この世に未練がないといったらウソになる。しかし、あちらの世界に行かなければならない。
笑顔で懐いてくる夕陽のことを思うと胸を締め付けられるが、ガマンするしかなかった。それに、自分の記憶は消える。それだけが救いだった。
あちらに続く門を開けて通るため、霊山に入った。
その山は霊山とは知られていない。そのため、道などない。草を分けて道を作りながら、凛音は汗をかいて登った。
やがて、空間の歪んだ場所に出た。空間が水面みたいに波うっていた。
その空間は固定されていない。そのため、その空間に干渉して望む世界に飛べる。
凛音はその空間に術を使い変質させる。そして、望んだ世界につながると固定して門を作った。
そして、その門に入る。
凛音は背後を見た。
感傷なのはわかっている。自分勝手だとわかっている。しかし、引き止める気配を背後に感じた。
いや、そう思いたかっただけだ。
「さようなら」
誰に言うのではなく別れのあいさつをして門をくぐった。
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