第25話 人形操作
両手を胸の前で向かい合わせに構えて、裕人は集中した。
胸の前の空間が歪んで、アメーバーみたいなものが動いて、脳内のイメージを形作っていく。
そして、それを完成させて手にする。小太刀だった。
「くっそー! 今度こそ!」
小太刀を手にした裕人は、すぐさま目の前の敵に斬りかかった。
裕人の前に立っているのは、ブルーティアがゴミ生成スキルで創った蒼い木偶人形だ。その木偶人形を操っているのはブルーティアで、手にはゲーム機のコントローラーが握られていた。
「甘いわ。ホレ、足元が隙だらけだぞ」
手元でコントローラーを操作して、木偶人形に水面蹴りをさせる。裕人は見事に足を掬われて、背中を地面に叩きつけられた。
「ほい。とどめ」
息が詰まった裕人の腹に、木偶人形の拳が突き刺さった。
声を出せず、苦悶の表情になる裕人に、ブルーティアが声をかける。
「これでわたしの五十戦無敗記録更新だな。まったく、いつになったら負けさせてくれるのか」
ブルーティアは手のひらを裕人に向けると、そこから光が放たれ裕人を包み込んだ。たちまち痛みがひいていき、ダメージが回復する。
「だぁーもー! 勝てるかこんなん!」
裕人は怒鳴った。
ゴミの分別生活およそ120日。とにかく、裕人は鍛えていた。
ゴミの分別は毎日の日課として、重たいものを運び続けたりして体力や腕力はかなりついた。筋肉疲労も、ブルーティアの回復ですぐに治って、身体を酷使した。
命懸けの戦闘も何回も行った。裕人よりも格上の魔獣ゴーレムをブルーティアが作成して、瀕死ギリギリまで戦わされた。
それによって、裕人は数ヶ月前とは比べものにならないほどに、心身ともに強くなっていた。
今は主に、この蒼い木偶人形と戦っている。これは裕人の修行はもちろんだが、ブルーティアの遊びも兼ねていた。
裕人は、彼女が持つゲーム機のコントローラーのようなモノに目を向けた。
数日前に、裕人の世界の娯楽であるゲームの情報を得てから、ブルーティアは格闘ゲームにハマってしまっていた。だが、実際ここでテレビゲームは作れないため、こうやって、木偶人形とコントローラーの動きを魔力で連動させて格闘ゲームのように動かしているのだ。
操作しているブルーティアはこの空間の管理者であり神だ。その神の操作する木偶人形に勝てる道理があるはずがなかった。
「はい無理! 神様負かすなんて不可能! もう絶対にやらねーから!」
「……そんなつれないこと言うでない。今度は、今度こそはちゃんとヒロトの実力に合わせて手加減してやるから」
「そう言い続けて何回目だよ! けっきょく、負けるのが嫌いなだけだろう!」
確かに手加減らしきものは感じ取れた。が、負けそうになると、突然に強くなって、裕人はやられるハメになるのだ。神様なのに、実に大人気ない。
それにしても、と裕人はもう一度ブルーティアの持つコントローラを見た。
前に、現世に帰るために、現世と異世界の知識の融合の話が出た。ある意味これもそうなのだろうか。
こういったことを突き詰めていけば、元の世界に帰る装置みたいなのができるのだろうか。
この空間でこの世界の知識を得たが、たった数ヶ月程度では限界があった。かと言って、ずっとここでゴミ処理と知識を蓄えているのにも限度がある。
「……なあ、ブルーティア様」
ブルーティアは手のひらを裕人に向けた。
「みなまで言うでないわ。そろそろ、外界に出たいの申すのだろう?」
「うん。自分で言うのもなんだけど、結構俺強くなったと思う
んだよ。ここでの修行とブルーティア様の肉体改造のおかげで」
「うむ。最初の頃とは見違えるようだぞ。よく頑張ったな」
裕人は目を開いたブルーティアを見た。そういえば、彼女が褒めてくれたのは初めてではないだろうか。
胸に熱いものが込み上げてきて、目頭が熱くなり、裕人を顔を上に向けた。
「……ありがとうございます」
「今のお前であれば、外界に戻っても易々と死ぬことはなかろう。最悪、自分の手に負えないと思ったら、ここに逃げ込めば良いしな。お主だけは、この世界に出入り自由なんだから」
「はい」
ここに来るにはゴミ魔法陣を出現させて、飛び込めばいい。それだけで、裕人は確実に生き残れる。
だが、だからと言って油断は禁物だ。魔法陣に飛び込む前にやられては何の意味もないのだから。
「さて、ステータスの最終確認をするがよい。お前の成長をわたしにも見せてくれ」
裕人は感慨深くなった。あのゴミステータスが今はいったいどうなっているのか。
ガチャについていたステータスを表示させる紋様は、小さい金属のタグにして、裕人の首からぶら下げてある。これでいつでも、自身のステータスを確認できる。
裕人はタグの紋様に触れて、自身のステータスを表示させた。
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