第24話 異世界スマホの機能

 比嘉裕人が異世界に取り残されて、現世では五日が過ぎた。

 比嘉の両親が心配して、警察に捜索願いを出した。居場所を知っているクラスメイトたちだったが、さすがに異世界にいるとは言えなかった。

 雪代は何もできない自分に歯噛みしていた。

 SNSなどでは、クラスにイジメがあってそれを苦に逃亡したのではないかという、不愉快な噂が一部流れたが、雪代たちは無視することにした。

 警察にも、比嘉の行き先に心当たりがないか聞かれたが、わからないと答えるしかなかった。

 できるものならば、彼が異世界にいることを伝えたい。異世界と通話できるスマホがあるのだから、彼の両親に無事な声を聞かせてあげたかった。

 だが、異世界にいると言ったところで信じてくれるわけがない。雪代たちの身に起こったことを説明したとしても、体育教師の鶴見が言ったように、集団催眠をかけられたとか疑われるのがオチだ。

 彼の両親に黙っているしかないのが、歯痒かった。

 時々、比嘉のスマホから異世界スマホに着信が来るが、かけてくるのはブルーティアが多かった。雪代たちの世界の情報を求めてくるのだ。それも、主に娯楽関係が多かった。

 理由を尋ねると、比嘉が精神的に疲労しているようだから、息抜きに何かしてやりたいと言った。

 何だ、いい人じゃないか。……人ではないけど。

 比嘉からも連絡が来て、みんなの声を聞きたがった。話によると、比嘉のいる空間は、外の空間やこちらの世界での時間の経過が違うということだ。

 こちらでの一時間が、ゴミ空間ではおよそ一日くらいらしい。単純計算で、こちらの24時間で24日経過していて、現在比嘉は向こうで120日過ごしていることになる。

 このままだと、比嘉だけが歳をとるのではないか。そうブルーティアに尋ねると、彼女は「精神年齢だけはとるかもな」と告げた。肉体は歳を取らないらしい。

 女子たちから、なんかずるい、という意見が出たが、雪代はそれよりも、比嘉が孤独感に苛まれていないか、というのが気になった。

 ふと、ブルーティアもゴミ空間でずっと一人だったのではないか、と考えた。彼女は人外なのかもしれないし、人の思考と同じでないかもしれないが、そんなゴミだらけの世界で寂しかったのではないだろうか。だから、比嘉の孤独感を少しでも紛らわせようと、こっち側の世界の娯楽を取り入れようとしているのではないだろうか。

 娯楽を取り入れた途中経過の話で、ブルーティアも一緒になって楽しんだのを、嬉々として話してくれた。

 比嘉が絶叫系に目覚めた意外な一面を聞いて、みんな笑っていた。さらに異世界側でも楽しめそうな娯楽の情報を伝えた。

 もちろん、娯楽の話だけではない。ちゃんと、比嘉がこちらに帰れそうな情報、知識も話して模索している。

 あの時、咄嗟に《神物創造》のスキルで創った異世界スマホだが、これが驚くほど万能だった。

 基本スマートフォンといえば万能ツールである。様々なアプリなどをダウンロードして、様々なことができる。ゲーム、配信動画サービス、音楽、SNS、といった娯楽や、最先端の社会情報を知り得ることが出来る。

 そういった認識が頭にあったからなのだろう。異世界スマホにも、そのほとんどが反映され、アプリも充実していた。

 すなわち、異世界の情報も検索できて、さらにこちらの世界の情報と照らし合わせられる。

 最初はそんなつもりで創ったものではなかったが、これは嬉しい誤算だった。

 この異世界スマホは、比嘉のスマホと通話できるのはもちろん、動画や写真も送ることができた。よってブルーティアに、こちらの世界の情報を伝えることも容易だった。

 娯楽としても、音楽や映画、漫画などを比嘉のスマホに送信することもできた。だから、比嘉が知りたいこちら側の状況や、彼が読んでいた漫画などの新刊や、アニメの動画などを送ったりした。

 こんな状況だが、比嘉の趣味嗜好を知ることができて、雪代は少し嬉しく思っていた。

 周りから、誰と付き合いたいか、という話題をよく振られるて、その度に雪代は特にいない、と答えていたが、実は比嘉が少し気になっていたのだ。

 なんとなく守ってあげたくなるような、側で見守って応援してあげたくなるような気持ちになる。

 庇護欲を掻き立てられる男性が好みなんだと、自己分析してわかった。それなのに、異世界に召喚された時に、真っ先に彼のことを探さなかった自分に腹が立った。

 時間はかかるかもしれないが、絶対に彼をコッチの世界に戻してみせる。

 雪代はそう決意していた。

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