第19話 知識

「だけど、生成できるものが変わってきたんだろ? めっちゃ頑張れば、凄えものも創れるんじゃないか? それこそ、コッチの世界に帰れるような装置とかよ」

 言ったのは藤堂だった。裕人を励まそうとして前向き発言しているのかもしれないが、そんなトンデモ装置を創れるようになったとして、そこに至るまでどれだけゴミの分別をしなければならないのか。だが、確かに希望は必要だ。

「ヒロトには無理だな」

 せっかくの希望の光をうち消すかのように、ブルーティアは否定した。

「何でだよ」と藤堂が訊く。

「ヒロトに限ったことではない。仮にお前たちがヒロトと同じ状況だったとして、お前らは、そっち側とこっち側を繋げる装置の仕組みや原理を理解できるのか? できるならば可能だが、無理だろう?」

 みんな黙ってしまった。ブルーティアの言うとおりだ。異世界を繋げる装置の仕組みなど知るわけがない。

「それって、ブルーティア様でも無理なんですか?」

 聞いたのは雪代だった。ちょっと、挑発するような物言いに聞こえたのは気のせいか。

「残念ながら、無理だな。わたしは万能の神ではない。挑発に乗れなくて悪いな」

 ブルーティアは面白がる素ぶりを見せた。一応、自称この空間の神様みたいな存在だと言っていたから、挑発してくる人間が面白いのかもしれない。裕人は現実を突きつけられて、全く面白く無かったが。

「まあ、でもひょっとしたら、こっちの世界の知識とそっちの世界の知識を併せたら、できる可能性は、なくもないな」

 思わず、裕人は顔をあげてブルーティアを見た。

「……俺たちの世界の知識と、異世界の知識の融合、か」

 いつもみんなに元気や勇気をくれる藤堂の声が沈んでいた。彼も、今回ばかりはどうしようもないと考えているのだろう。

「……無理だろ」「普通の高校生がそんなもんできるわけない」

 スマホの向こう側では諦めムードが感じられた。そんな中で、雪代が言う。

「けれど、やらなかったら比嘉くんは帰ってこれない。やれることはやるべきよ。わたしは諦めないわ。だから、比嘉くんも諦めちゃダメ」

 その言葉に、裕人は胸が熱くなった。好きな女子が懸命に助けようとしてくれている。これほど勇気づけられることはない。

「ありがとう、雪代さん」

「……比嘉、俺たちも何ができるかわからねーけど、とにかく色々と考えてみる。お前も諦めんなよ」

「そうよ。比嘉くんも頑張って」

 みんなの言葉に、また涙腺が緩んできた。

「みんな、ありがとう。わかった。俺もできることをするよ」

「うん、頑張って。それじゃあまたね」

 雪代が言って、通話が切れた。

 ……本当に、同級生に恵まれたと実感した。

 裕人にできること。それは、とにかく鍛えて、ゴミスキルを上げることだ。

 このゴミスキルが錬金術と同等なのか甚だ疑問ではあるが、とにかくやるしかない。

「……あ、お前たちの世界のことを色々と聞こうと思ったのに……」

 ブルーティアがポツリと少し寂しそうに呟いた。そういえば、雪代たちから色々と聞こうとしていた。

 ブルーティアは、コホン、と咳払いした。

「まあよい。わたしは寛大だから、次回にするとしよう。ところで、こちら側とそちら側を繋げる方法を探ると言ったな。実に面白い。そういうことなら、わたしも手をかそう。ヒロトよ。お前にこの世界の知識を授ける」

「この世界の知識?」

 それはありがたい。今最も欲しいものだ。

「さあ、受け取るが良い」

 ブルーティアは言って、裕人の周囲に大量の本棚を出現させた。

 ……確かに知識と言えば、書物である。だが、ここは異世界で、ブルーティアは神様みたいなものなのだから……。

「……えっと? こういうのって、頭に直接知識をぶち込むとかじゃないんですか?」

「阿呆。そんなことすれば、脳が情報の処理に耐えきれず、パンクするだろうが。お前は廃人になりたいのか?」

「……いえ、なりたくないです。コツコツ、書物を読みながら、身体を鍛えます」

 かくして、裕人は現状維持でこのゴミ空間での生活を続けることとなった。

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