第17話 ゴミの分別
異世界ファンタジーといえば、何を想像するだろうか。
一昔前で言えば、剣と魔法の世界が定番だ。勇者がいて、ドラゴンがいて、魔物とか魔王とかがいて、それを討伐していく物語が多い。ステータスがあり、レベルがあり、経験値があり強くなって世界を救う。
昨今では、チート能力を最初から所有していて無双する話や、異世界でスローライフを送る話が主流だ。
頼りになる仲間たちとの大冒険やダンジョン攻略。現世の科学知識を活かしての魔物肉の調理。美女に囲まれての悠々自適生活。
中には不遇な扱いを受けて、逆境から這い上がる泥くさい主人公もいたりする。
とにかく、異世界に来たなら、それらのどれかをしてみたかった。
なぜ、俺はここでこんな事をしているのだろう。
ゴミステータスで、ゴミスキル持ちで、ゴミの世界で、ゴミの仕分け作業をしている。
ブルーティアによると、このゴミ仕分け作業によってゴミスキルの熟練度が上がるとのことだった。
さらに、彼女はとんでもないことを言い放った。
「ヒガヒロト、お前はこの空間に来た時点でゴミ認定されている。そして、わたしはゴミを好きに操ることができる。つまり、わたしはお前を分解や再構築することができるということだ」
「ぶぶぶぶ、分解!?」
「安心せい。そんなことはせんよ。要するにわたしが言いたいのは、お前を好きに改良できるということだ。すなわち、お前のステータスを変えることができる」
このゴミステータスを変えれる? それは、この虚弱体質、不幸体質をも変えれるということだろうか。
「ま、マジですか?」
「ああ。まあ、だが、今は一般人より少しいいBランクくらいにしておこう。強くなりたければ、そこから自分で鍛えろ。わたしは、異世界人だからといって、やたらとステータスを高くするのは嫌いなんでな。あと、スキルをあげたければ、ひたすらゴミの仕分けをしろ」
これが裕人が現在に至る経緯だった。
あと、ブルーティアによると、この空間にはゴミスキルを持つ者以外は入れないとのことだった。
召喚ガチャで、能力オールGランクでカプセルの中に入れられたまま、このゴミ空間に捨てられなければ、裕人は異世界の環境についていけずにのたれ死んでいた可能性が極めて高かったという。……果たして運がいいのか悪いのか。
何とも複雑な気持ちで、裕人は目の前のゴミをひたすらに分けていた。
スピーカーにした電話の向こう側で、クラスメイトたちも言っていた。
「まさか、ゴミ生成スキルが、錬金術と同じような役割とは。錬金術といったら、基本チートスキルだろ? これはアレだな。ハズレスキルだと思ったら、実はチートスキルでしたってやつだな」
「……でも、ゴミスキルがチートってのもなんだかなぁ」
「せめて、もうちょいスキル名何とかならなかったのか?」
全く同感だった。
スキル名は変更できないのだろうか。後で、ブルーティアに訊いてみることにしよう。
今はとにかく、ゴミの仕分け作業に専念だ。
木材、紙類、羊皮紙、鉄材、生ゴミ、衣服類。そして、家具などの粗大ゴミをとにかく分類する。
本当にこんなことをしていて、スキルの熟練度があがるのだろうか。
分類し続けてどれくらい経っただろうか。体感時間にしたら、おそらくはまる1日は作業した。さすがに疲れたが、ここまで動けたのは身体能力を改良してくれたおかげだ。
腹が減ってきたところで、ブルーティアに声をかけられた。
「おい、そろそろ飯にするぞ」
裕人は作業を中断した。
ちなみに、彼女はずっとベッドで横になって何かの本を読んでいた。
丸いテーブルの上に、豪華な料理が並ぶ。どれも、ブルーティアが手を翳しただけで出現したものだった。
焼きたての湯気がたちのぼる肉厚ステーキ。みずみずしい新鮮そうなトマトとキュウリのような野菜が入ったサラダ。ふっくら焼きたてのパン。フルーティな香りが漂う搾りたてのようなフルーツジュース。
どれも、捨てられた食材を元に作ったものとは到底思えなかった。
元がゴミだと考えたら食欲が無くなりそうなものだったが、その考えはこの香りの前には無力だった。
肉は程よい硬さで、噛んでいるうちに口の中でほぐされていった。脂はしつこくなく、味も高級肉を食べたかのような味わいだった。
サラダも、何の味付けもしていないのに素晴らしい甘みがあった。大地も水も太陽もここにはないのに、その恩恵を最大限に受けて育ったかのような味だ。
パンもフルーツジュースも、全て絶品だった。
「……有り得ない美味さだな」
あとは、周りの景色がもっとマシだったら良かったのだが。
裕人がため息と共に溢した呟きに、ブルーティアも同調したように小さなため息をつく。
「上のヤツらは、食物だけでなく、物の価値をまるでわかっておらぬ輩が多くてな。本来、極上である肉や野菜を、屑物だと決めつけて捨ててしまいよる。他にも、まだまだ使えそうな家具や調度品などもな。まさに愚の骨頂だ」
なるほど。だから、ここではその捨てられた極上の食材が食べれるのか。……でも、やっぱり捨てられた以上は、ゴミなのだが。
「それで、俺はいつになったらここから出られるんですか?」
肉をほおばりながら裕人は尋ねた。
「そう焦るな。お前も気づいているだろうが、この空間は、時が経つのが非常にゆっくりになっている。長い年月をここで過ごしても、外の世界ではほんの数時間程度のものだ。ある程度鍛えてからの方が、外では生きやすくなるぞ」
酒をグラスで飲みながら、ブルーティアはそう答えた。やはりそうだったか。こういうところはさすが異世界だと認めざるを得ない。
「それにだ。ここには何でもあるし、何でも創ることができる。この食事のようにな。お前を強くするための設備も簡単だ」
「……強くなるための設備」裕人は考えて、ダンベルや、ランニングマシーン、ウェイトトレーニング、サンドバッグなどのジムの設備を思い描いた。
いやいや、ここは異世界。もっと実践的な肉体強化が必要だ。
とにかく、今はもう少し体力をつけ、そしてスキルをあげることに専念することにした。
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