第16話 ゴミスキルの真髄

 ブルーティアが咳払いして言った。

「異世界の者よ、わたしはブルーティアという。今、ヒガヒロトがいるこの異空間の管理者である」

「初めましてブルーティア様。わたしは、比嘉くんのクラスメイトの雪代綾葉といいます」

「同じくクラスメイトの藤堂晃だ」

 藤堂も名乗って、他にも何名かのクラスメイトがしゃしゃり出て名乗った。

「さっそくだけど、お願いですブルーティア様。比嘉くんを早くそこから出してあげてください。管理者であるあなたならできるんでしょう?」

「うむ。造作もないことだな。だが、ダメだ」

「どうしてですか!」

「まあ、そう興奮するでない。このままこの空間から出したところで、この者が野垂れ死ぬのは目に見えておる。なにせ、全ての能力がGなのだからな」

「それは大丈夫です。さっき、この異世界スマホで、わたしたちと契約を交わしたフレアルドとかいう王様に、比嘉くんのことをお願いしましたから」

「ん? こっちの世界にもスマホみたいのあるの?」

 疑問に思ったことを尋ねる。

「スマホはないけど、通信設備みたいなのはあるみたい。どんなのかは知らないけど」

「なるほど」

 それはともかく、さすがは雪代。仕事が速い。王族が守ってくれるなら安心だと思ったが、ブルーティアの次の台詞に言葉を失った。

「いや、それでもこの者はすぐに死ぬ。運がGランクだぞ。ほんの些細なことで、コヤツは間違いなく命を落とす。だが、この空間にいる限りは、大丈夫なのだ」

 聞いていて、裕人は目眩を感じた。まさに、ゴミランクではないか。なんでこんなことになった。俺が何をしたというのだ。

「……どんだけ不幸なんだよ、比嘉はよ」

「……ホント、可哀想」

 クラスメイトの同情の声が聞こえた。

 藤堂がブルーティアに訊いた。

「あんた、比嘉はその空間にいる限りは大丈夫だと言ったな。あんたが管理するその空間は何なんだ? ただのゴミ廃棄空間じゃないのか?」

「簡単に説明するとだな、ここはわたしが管理する空間で、世界中のゴミが魔法陣で送られてくる空間でもある。まったく、何でもかんでもこの空間に捨てればいいというものではないのだがな。人間とは困ったやつらだ」

「……そういう割には、あまり怒ったようではないな。世界中のゴミがあんたの空間に捨てられているんだろ? 不快じゃないのか?」

 ブルーティアは、ふふんと笑みを浮かべた。

「お前らに問おう。ゴミとはなんだ?」

 突然の質問に、裕人たちは首を傾げた。

「ゴミの定義? 生活に伴って発生する不要物のことかな」

 思いついたことを裕人は口にした。

「……けど、一概に全てのゴミが不要物とは言えないわね。リサイクルできるものもあるだろうし」

「そうだな。まだまだ使えるものなどは、売って再利用したり、修理したりするしな」

 雪代と藤堂の言葉に、ブルーティアは少し目を開いた。

「おお、お前たちの世界ではゴミに対してそういう認識があるのか。素晴らしいな。この世界の基準とは大違いだ。この世界の住人はそういった概念が全くない。先ほども言ったが、とにかく何でもかんでもこの空間に捨てれば良いという考えを持っておる。そのゴミがすべからく、素晴らしい資源となるとも知らずにな」

 それはこちら側も昔はそうだった。地球環境に配慮せず、好き放題資源を無駄遣いしていた。だが今は、地球の資源について考えを改め、色々とエコ活動が盛んになっている。

 ふと、今の話と先ほどのブルーティアが使用した能力について一つの可能性が思い浮かんだ。

「……ちょっと待って。それって、ひょっとして、ゴミスキルと関係あったりします?」

 裕人の言葉に、ブルーティアは笑みを浮かべて裕人を見た。

「なかなかよい勘をしているな。その通りだ。ゴミスキルと言葉は悪いが、これは熟練すればこの空間内の物質を分解して別のものに作り変えることができる力なのだ」

「……マジか。それって錬金術と同じじゃないか」

 電話の向こうで藤堂が呟いた。

 昨今のファンタジーやゲーム知識だと、素となる材料と、創るモノの仕組みと構造、原理を知っていれば何でも作り出せるといった術である。それらの基本は、『分解』『錬成』『再構築』である。

 確かに錬金術のようだ。使いこなせれば、相当な能力であることがわかる。先ほどブルーティアが出したこのソファやテーブル、飲み物入りのグラス、酒瓶などもその例なのだろう。

 ゴミスキルも極めればそんなことができる。その可能性に厨二心が疼いたが、今はそれよりも確認しなければならないことがある。

「それよりも、俺はどうしたらここから出れるんですか? 今のゴミステータスじゃ外に出たらすぐに死ぬんでしょう? どうしたらいいんだよ!」

「……比嘉くん」

 電話の向こうで、雪代が言葉を詰まらせた。

 必死な裕人の訴えに、ブルーティアは告げた。

「そうだな。とりあえず、しばらくここでゴミの分別を行なってもらおうか」

 僅かな間が空き──。

「は?」

 裕人を含め、全員の声が重なった。

 

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