第15話 管理者
ちょっと待て。今のって『ゴミ生成』のスキルに似ていたが……まさか。
「あー、あと、その辺も邪魔だな。ちょっと整理するか」
女性が裕人の前にあるゴミだらけの箇所を指差すと、またも空間が歪んで今度は裕人の前のゴミが吸い込まれていった。
「で、代わりにコイツを置いて」と、空いた場所に、今度は青いテーブルクロスが掛かった丸いテーブルが現れた。「最後に飲み物、と」テーブルの上に、何か透明な液体が入ったグラスが出現する。
裕人はいったん考えることはやめた。何が起きているのか、きっと彼女が今から説明してくれるのではないか。
「そして、わたしは眠気覚しにコイツを出して」と、彼女は手に酒瓶らしきものを出現させ、一口口に含んだ。
「かぁー! 美味い!」
裕人は彼女が話し出すのを待っていた。そして、ようやく彼女がこちらを見る。
「さてさて、ヒガヒロトよ。まずは、わたしが誰か知りたいだろうな。では自己紹介をしよう。わたしは、この空間の管理者、名をブルーティアという」
このゴミ空間の管理者? こんな美女が?
まさにはき溜めに鶴。いや、ゴミ溜めに女神。……だがなんか口調は大雑把だし、いきなり酒飲み出すし、どこかオッサンくさい。とにかく、ここの管理者であるなら、あまり失礼な態度は取れない。
「あの、どうして俺の名前を?」
「お前の情報は、この空間に入ってきた時点でわたしに全て伝わるんだよ。お前が異世界召喚者であることも、一人この世界に残されたことも、ゴミスキル持ちだということも。まあ、お前に限らず、この空間に入ってきたものは、ゴミだろうとなんだろうと全てわたしには筒抜けだ」
裕人は唖然とした。そして、ハッとして、ブルーティアに訊ねる。
「あなたが、ここの管理者であるなら、俺をここから出してくれませんか! お願いします!」
言うと、彼女はとても良い笑みを浮かべて言った。
「ダメ」
「え? だ、ダメ? なんで?」
「数百年ぶりのせっかくの話し相手を、そう簡単に手放してたまるかい」
裕人はまたも唖然とした。
「で、でも、親も心配してるだろうし、早く家に帰らせて欲しいんですけど!」
「まあまあ、そう焦るな。ここから出たとしても、お前はどうせ直ぐには元の世界には帰れん」
「そんなことはありません! 俺のクラスメイトたちがきっと助けに来てくれます!」
「ん? お前の仲間とやらは、元の世界に帰ったんだろ?」
裕人はブルーティアに、雪代が『神物創造』で異世界スマホを作って持って帰り、それで先ほど通話したことを告げた。
するとブルーティアは目を見開き、それから腹を抱えて笑い出した。
「それは本当か? 『神物創造』でこの世界と通信できるものを創ったというのか。なんとまあ、面白いことを考える者がいたもんだ。確かに、あのスキルならそういうことも可能だな」
愉快そうに笑った後、ブルーティアは裕人を見た。
「しかし、お前が仲間の助けを期待しているところ悪いが、お前の仲間はこの世界に来ることはもうできんぞ」
「……え?」
「一度この世界に召喚された異世界人は、元の世界に戻ったら二度と召喚することができん」
胸中に暗雲が立ち込めた。背中にじっとりと、汗が滲み出てきた。
「……何で?」
「なんでもなにも、そういう
「……そんな」裕人は項垂れた。雪代たちが助けに来てくれると思っていたのに。
そういえば、先ほどその雪代から連絡があったのを思い出した。
あれから何か進展はあったのだろうか。
「……ちょっと失礼します」と、ブルーティアに断って、スマホの着信履歴から、雪代の番号を押す。ワンコール目で出た。
「もしもし比嘉くん! さっきはどうしてすぐに切ったの? 何かトラブル?」
トラブルといえばトラブルだ。半裸の美女の寝姿に見惚れて下半身が熱くなっていたなどと言えるはずもない。
「あ、うん、ちょっと想定外のことが起きたんだけど、後で話すよ。それより、そっちはどうなったんだ?」
向こう側で、雪野が沈黙した。そして、
「……ゴメンね、比嘉くん。助けに行きたかったんだけど、わたしたちはそっちの世界にもう行けないみたいなの」
「……あ、うん、そうみたいだね」
「え? そうみたいって、どういうこと? すでに、そのことは知っているの? なんで?」
「あー、うん、実は──」
裕人は、ブルーティアの事を話すことにした。もちろん、半裸のネグリジェ姿を見ていたことは話さない。
「ゴミ空間の管理者?」雪代が驚いた。周囲もなにか騒ついているから、クラスメイトたちもいるのだろう。今回もスピーカーになっているようだ。
ブルーティアが裕人の持つスマホを見つめた。
「ほうほう、それでこことは違う異世界と通話しておるわけだな。面白い。ちょっと、わたしにも話させろ」
「……なんか、管理者さんがみんなと話したいと言ってるけど、どうする?」
雪代に確認してみると、向こう側で少し騒ついたあと、「わかった。代わってもらって。あ、スピーカーにしてね」と言ったので、裕人もスマホをスピーカーにしてテーブルの上に置いた。
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