第14話 目覚め

 待てども待てども、彼女が起きてくる気配はない。

 とりあえず、裕人はベッド周辺のゴミを拾っては投げ、拾っては投げて、周りを少しでも綺麗にしようと頑張っていた。

 その行動に特に意味はない。なんとなくの行動だった。

 作業をしながら、あの女性のことを考える。

 見た目は20代半ばといったところだろうか。ボサボサな髪をしていたが、櫛でといたりすれば背中くらいになりそうだ。スタイルも抜群だった。

 何故、彼女はこんな所で、あんな姿でスヤスヤと寝ているのだろうか。

 ベッドで寝ているところを、何者かによってそのままこのゴミ空間に放り出されたのだろうか。だとしたら、いったいどういう状況でそうなったというのだろうか。

 もう一度ベッドを見る。やっぱり、勇気を出して起こしてみようか。でないと、話が進まない気がする。

 裕人はそーっと、再びベッドへと近づいて、レース越しに声をかけた。

「あのー、すいませーん」

 返事はなし。少し声を大きくしてみる。

「すいませーん!」

 やはり返事がない。もっと声を出さないとダメだろうか。

「すいませーーーん!」

 ……これでもダメだった。

 揺さぶり起こすしかないのだろうか。裕人は恐る恐るレースのカーテンを開けて、女性を見た。

 艶かしい肢体が目に入り、顔が熱くなる。ついでに、気付かぬうちに男の性で、下半身の方も熱くなっていた。

「も、もしもーし? 聞こえてますか?」

 とりあえず、声をかけるも、やはり返ってくるのは寝息のみ。「あ、あのー、こんな所で無防備だと、悪戯されちゃいますよー」

 忠告もしたが返事はない。

 無論、悪戯するような輩といえば、裕人しかいない。そんな勇気はないが、見るだけならいいだろうと、自分を正当化した。

「……綺麗な人だな。王女様とかそういった人かな」

 彼女の身体を見ながら、下半身を熱くしていると、突然裕人のスマホが鳴り響き、驚きで心臓が爆発したかと思った。

 慌てて画面を見ると、雪代からだった。

 通話を押そうとして、ふと視線を感じて見てみれば、ベッドの上の女性が目を開けて、こちらを見ていた。

 

 目の前には、目を覚ましてこちらを見ている半裸の女性。

 股間を膨らませて側にいる裕人。

 雪代からの電話。

 こんな状況で何が最優先か高速回転させれるほど、裕人の脳は優れていない。が、女性の目が眠そうで、まだ事態を把握していないのが見て取れてからは速かった。

 まず、雪代の電話に出る。

「あ、もしもし、比嘉くん──」

「ごめん雪代さん! 後でかけ直す!」

 そう言って即座に通話を切って、裕人はベッドから急いで少し離れて女性に向かって土下座をしていた。

 そのまま待っていると、ベッドから女性が起きて出てくる気配が窺えた。

 ふぁーあ、と間延びした欠伸をして女性が裕人の前に立つ気配がした。

「すいません! 勝手に中を見てしまって! 悪気はなかったんです!」

 まず、裕人は土下座したまま謝った。

 女性は頭を掻いて、裕人を見下ろした。

「あー、うん、それは別にどうでもいいのだが、とりあえず顔をあげようか」

 穏やかな口調で言われ、裕人は恐る恐る顔を上げた。

 未だ眠そうな顔で、姿は当然ネグリジェのまま。とても、直視できない。

「えーっと、ちょっと待て。とりあえず、着替えるから」

 その言葉に裕人は慌てた。着替えるってここで? まさか生着替えまで見れると言うのか。

 裕人は視線を逸らそうとしたが、男の性に逆らえずどうしても目がそちらに向いてしまう。怒られるだろうとわかっていたが、こればかりは仕方がない。

「別に見ててもいいぞ。すぐ終わるし、人間に見られた所で何とも思わん」

 そう言うと、彼女は自分のネグリジェに手を当てた。途端に、触れた部分から全身青づくめの服装へと変わっていった。

 身体にフィットしたようにぴちぴちの服で、ラインがとてもよくわかってこれはこれで目のやり場に困った。

「さて」と、彼女はドカリとベッドの端に腰掛け、いつの間に出したのか、櫛で髪をとかしながら、笑みを浮かべて裕人を見た。

「随分と久しぶりの人間だな。生きた人間がこの空間に入ってきたのは何百年ぶりだろうか」

「何百年ぶり!?」

 その言葉に、さまざまな疑問が思い浮かぶ。まず、この目の前の女性は一体何歳だというのだろうか。

「その目は、コイツどれだけ生きているんだって顔だな。まあ、久しぶりの人間だ。とりあえず、ゆっくりと話そうではないか。そこに座れ。ヒガヒロト」

 またも裕人は目を見張った。まだ名乗っていないのに、何故名前を知っているのか。

 女性は目の前の少し空いたスペースを指差した。すると、その場所の空間が歪んだように見え、うにょうにょと何かが蠢き、やがてそれは形を成して青い豪華なソファーへと変化した。

 それを見てまたも絶句する裕人。

 ちょっと待て。今のって『ゴミ生成』のスキルに似ていたが……まさか。

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