第12話 通話
目が覚めた時、裕人は周囲のゴミ集積空間を見回して改めて気落ちした。
あれは夢だった、というのを期待していたのだが、現実は甘くないらしい。
あれからどれだけ時間が経ったのだろうか。今が昼か夜なのかさっぱりわからない。頼りになるのは、腹の空き具合だけか。
その辺に時間がわかる物とか落ちてないだろうか。そう考えて、裕人は自分のバカさ加減にため息をついた。
……何で、今まで気づかなかったのか。ポケットにスマホを入れっぱなしだったではないか。ポケットからスマホを取り出して、画面を開き時間を見て、目を見開いた。
時刻は、召喚された日付の15時だった。
異世界召喚されたのが、13時30分ごろ。ガチャ排出から魔神討伐までで、だいたい一時間半程。このゴミ空間にきてからも、それなりに時間は経っていて、確実に一日ほどは経過しているはずだった。だが、スマホの時刻は、召喚されてから1時間半ほどしか経っていない。……やはり、ここでは時間経過のスピードがかなり遅いということか。
一応、スマホの電波を見たが、当然圏外。助けを呼べることはできない。
スマホをポケットにしまおうとした時、突然スマホに着信があり、裕人は滅茶苦茶驚いた。
「な、何だ!? 誰だ?」
画面を見る。知らない番号だった。
ちょっと待て。ここは圏外──というか異世界。何故、着信がくる。いったい誰からだ。
恐る恐る、裕人は電話に出た。
「も、もしもし?」
「もしもし!? 比嘉くんなの!」
女の声だった。
「……そうですけど、え、えーっと、どちら様で?」
「わたしよわたし! クラスメイトの雪代綾葉よ!」
頭が混乱した。
何故雪代から着信がきたのだろうか。何故、この電話番号を知っているのだろうか。……いや、不思議なのはそこじゃない。ここは圏外だし、何より異世界の異空間だし、彼女たちは現世に帰って行ったはずだから、通話などありえない。
「ちょっと待ってね。スピーカーにするわ」
雪代が言ったあと、「比嘉、無事か!」「マジでお前、異世界に取り残されたのかよ!」と、クラスメイトたちの声も聞こえた。
ますます混乱する裕人。
そこに、藤堂晃の声がした。
「……すまない、比嘉。俺がもっとしっかりしていれば、お前をこんな目に合わせることはなかった」
「ちょっと待ってくれ! 何で電話が繋がっているわけ? 意味がわからないんだけど、みんなは現世に帰ったんじゃなかったのか」
「……うん。実はね」と、雪代が電話で状況を説明してくれて、裕人は度肝を抜かれた。
雪代の咄嗟の機転で、異世界用スマホを作成? それを使って現世からこの世界と交信できるようにした? 唖然とするしかなかったが、何にしても、知っている人の声、しかも好意を抱いていた雪代の声を聞けたのは、とても嬉しかった。
「比嘉くん、そっちはどうなの? どういう状況?」
裕人は周囲を見渡し、この場所に追いやられた経緯を説明した。
電話の向こう側で、絶句した空気が伝わってきた。
「何てことを……」雪代の怒りの声が聞こえた。
「……ああ、あの支配人許せないな」藤堂も低く言った。
「ゴミスキルって何だよ。ふざけてやがる」
「ランクも全部Gランクなんだろ? おかしいだろう。比嘉は確かに体力はないが、成績はそこそこ良かったはずだ」
他の生徒たちの憤りの声も聞こえ、裕人は自分の為に怒ってくれるクラスメイトに嬉し泣きしそうになった。
「……比嘉くん、待ってて。このスマホであの王様みたいな人に文句言ってやるから。そして、あなたを助け出して、こっちに戻してもらうように頼むわ」
「それまで気を強く持つんだぞ」
「諦めんなよ。コッチには、チート生徒が2人もいるんだ。きっと、なんとかなる」
雪代の、みんなの声が、裕人の胸に浸透していった。かつて、これほどまでに、クラスメイトの言葉に力づけられ、存在がありがたいと思ったことはなかった。
「……雪代さん、みんな、ありがとう」
嗚咽混じりの声になった。
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