第11話 異世界から持ってきた物
異世界から現世に帰る時から、ずっとモヤモヤしていた。
何だろう。何か忘れている。何を忘れているのだろうか。
アニメや漫画でよくある異世界召喚というものに巻き込まれて、あまりの出来事に脳の一部が麻痺していた。
体育教師の鶴見は、「アレはきっと集団催眠だ」などと言って、異世界での出来事を完全否定していた。
帰りのホームルームにて。
担任の先生が神妙な顔で生徒たちに質問した。
「なあ、お前たち、誰か比嘉を知らないか?」
生徒たちが一様に首を傾げる。
「比嘉? いや、知らないっすよ。保健室じゃないんすか?」
「……いや、先生もそう思って行ってみたんだが、保健室にはいないんだ。勝手に帰るヤツでもないしな。本当にお前ら知らないのか?」
生徒たちは顔を見合わせ、首を横に振った。
「知らないな。……あいつ、ひ弱だから、倒れて病院に運ばれたとか?」
「それなら、何かしらの連絡が学校か比嘉のご両親に入るだろう。だが、それもない」
比嘉くん。そういえば、5限目の体育の時にはいたけど、その後見ていない。
雪代綾葉は比嘉の机を見た。そして、「あーーー!?」と、叫び声をあげて、勢いよく立ち上がっていた。
驚く先生と生徒たち。
「ど、どうしたんだ雪代?」訊いたのは藤堂晃だった。
「……帰ってきてない」
「何だって?」
「比嘉くんだけ、異世界から帰ってきてない……」
先生には適当に誤魔化して、ホームルームが終わった後、綾葉は教壇に立ってみんなを見回し、比嘉が異世界に取り残されたことを伝えた。
生徒の一人が「それはないだろ。藤堂と雪代が魔神を倒した時、全員いただろ?」と半笑いで言った。
「……本当にあの時、比嘉くんはいた? 誰かこの中の一人でも、彼の姿を見た?」
綾葉が射抜くような視線をみんなに向けると、誰も目を合わせようとしなかった。
「ガチャをしていた時に、あの魔神はやってきたわ。あの時、ガチャが全員を排出していたのを誰か確認した?」
誰も答えない中、藤堂が言う。
「……いや、確かに俺も比嘉を見ていない。いきなり魔神とやらが攻めてきて、それに気を取られて全員を確認する余裕はなかったしな」
みんな小さく頷いた。
「そう。あの時、比嘉くんはまだガチャ内にいたのよ」
その言葉にざわめくクラスメイトたち。
「で、でもよ、魔神は倒したんだから、あいつも戻ってきてるんじゃないのか?」
「……いや」と藤堂が腕を組んで唸ってた。「あの王様みたいのが言ってたろ。契約を交わし、それが達成されれば元の世界に帰れるって。比嘉はガチャ内にいて、契約を交わせなかった。そして、俺たちだけが契約を果たして、無事に帰ってきた」
藤堂が歯噛みしして、自分を責める。
「……くそ。俺のせいだ。俺が比嘉のことをもっと気にかけていたら」
教室内が静まり返った。
比嘉は取り立てて、クラスの誰かと仲がいいわけではない。身体が弱いのを気遣われることを少し嫌っているところがあり、自分から少し距離を置いていた。それでも、本当に助けて欲しい時には助けを求めたし、クラスメイトたちも手を貸していた。
身体の弱い彼を、異世界に置いてきた罪悪感が重しとなったかのように、みんなの姿勢が少し沈んだ。
そんな彼、彼女たちに、綾葉は言った。
「……比嘉くんを助けるわよ」
みんなが驚いて綾葉を見た。
「た、助けるって言ったってどうしようもないだろう? 異世界なんだぜ? どうするんだよ」
藤堂も沈痛な面持ちで言った。
「そうだぜ、雪代。俺たちでは、比嘉を助けることができない。スキルもこっちに戻ってきた時に全て失ってしまったんだ。比嘉に対してできることは俺たちには何もない」
「いいえ。一つだけ異世界と連絡する方法があるわ」
その言葉に、生徒たちは訝しげに眉を寄せた。
「何を言ってるんだ? 異世界と連絡取れるわけないだろ」
綾葉はそのスマホを取り出して、みんなに見せた。
「それができるのよ。実は、こっちに帰る直前に、わたしの『神物創造』のスキルを使って一つだけ作ったものがあるのよ」
現世に帰る直前、綾葉は召喚された異世界と繋がるものを創ることにした。理由は、また召喚されたらたまらないから二度と召喚するなと釘を刺しておこうと思ったのと、忘れ物などがあった時にこっちに送ってもらえるか聞くため、それと、二度とゴメンだが、またあっち側に召喚された時に、何かと役立つかと思って創った。
これがこっち側で機能することは、『スキルの叡智』で把握済みだ。
「それが、これよ。異世界通話スマホ」
全員が目を丸くして驚いた。
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