第9話 現状把握
こんな所でただじっと待っていても、助けなど来ない。
そんなことはわかっている。けれど、仕方がないではないか。こんなゴミの掃き溜めで、どうやって生きていけばいいというのだ。
幸いにして、先ほど食べた萎びた果実みたいに、食べれそうな生ゴミはそこらじゅうにある。飢えはしないかもしれないが、しかし、こんな所で生きて何か意味があるのだろうか。
しかも、使えるスキルは『ゴミ生成』ときたものだ。ゴミ溜めでゴミを生成したところで、ゴミを増やすだけではないのか。
どう考えても詰んでいる。
裕人は絶望した。
……これもう、諦めるしかないよな。
その辺には、まだ切れそうな剣などの残骸もある。これで手首を切れば楽になれるだろうか。
裕人は剣の残骸を拾いあげて、手首に当てがった。このまま引けば、いっぱい血が出てそのうち意識がなくなって何も考えずに済む。楽になれる。
しばらく裕人は手首に折れた剣を当てていたが、持つ手を緩めて剣を地面に落とした。カランカラン、と金属音が辺りに響いた。
ダメだ。出来ない。自分では死ねない。死にたくない。
だったらどうするか。生きるしかない。この場所で、何とか生きていくしかない。
ここから脱出する術があるかどうかは分からない。けれど、食べるものさえあれば、何とか生きていける。不衛生だから、きっと病気とかにもなるだろう。そうなったら、きっと助からない。けど、そうなったらそうなった時だ。
諦めるのは、やれるだけのことをやって心の底から絶望した時だ。
とりあえず現状把握だ。
裕人は辺りを彷徨いながら思考を巡らせた。
「そういえば……」と一人ごちる。一人で喋って気を紛らわせるしかなかった。
「……さっきの肉、なんで温かったんだろう」
異世界の誰かが、出来上がったばかりの肉を食べて、そのまま捨てたのだろうか。それをたまたま裕人がここで手にしただけなのか。
裕人はもう一度、先ほどの肉の場所に行って肉を拾い上げた。まだ温かい。というか、温度が変わっていない。
「……何で?」疑問を口にする。この世界には保温効果の魔法とかがあるのだろうか。
先ほど食べた萎びた果実を思い出す。随分とみずみずしかった。あれも捨てられて間もないものだったのだろうか。見た目は確かに不恰好で、美味しそうには見えないため、ゴミとして捨てられても不思議ではなかったが。
裕人は他の生ゴミも調べてみることにした。誰に見られているわけでもないし、体裁など気にしている場合でもない。
さまざまな生ゴミの中で、幾つかは、失敗作の料理をすぐに捨てたかのような熱いままのものがあった。冷凍ものもそうだ。凍ったままの魚がそのままの状態でいくつか見つかった。
ここは異空間。それが何か関係しているのだろうか。ふと、裕人はラノベファンタジーありきの収納ボックスのことを思い出した。
基本何でも入って、好きに出し入れ可能で、尚且つ入れた時の状態のまま、というゲームでよくある設定のスキルだ。
この異空間もその類なのだろうか。
だとしたら、この異空間には時間の概念がないということかもしれない。
まだ決めつけるのは早い。もう少し探索して調べてみよう。
そしてゴミ世界を少し探索したが、裕人は僅か三十分程で肩で息をしていた。元の世界でも虚弱体質だったのだ。こんなゴミだらけの足場が悪い所を動き回って、逆に三十分もよく歩き回れたものだ。
手近にあった座る分に丁度いい石材の上に腰を下ろして一息つく。
「……そういえば、異世界といえばアレだよな」
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