第8話 ゴミ空間
現在、青い透き通ったような海のような空間に、裕人はカプセルの中で三角座りをしていた。
周囲がゴミのようなものだらけの空間で、裕人はこれまでの経緯を思い出してみたが、やはり意味がわからなかった。
地面は蒼い大理石のような見た目。周囲には、何やら色々見たこともない朽ちた残骸やらが山の如く積み上げられている。
イメージは、透き通った海の中のゴミ集積場だった。
裕人が入ったカプセルも、遥か上空からゆっくりと水中に
外に出ても大丈夫なのだろうか。
裕人はもう一度、周囲を見回した。
見渡す限りゴミらしき山。日本のものと違って、家電とかの類はなく、ひしゃげた鎧や兜、錆びついた大砲、折れた剣やら槍やらの異世界らしき武器が大量にあった。他には、テーブルやタンスなどの粗大ゴミ。さらに、残飯や調理したあとの生ゴミなどもあった。……あと、見たこともない怪物らしき死骸とかも。
「……まさに、ゴミの掃き溜めだな」
カプセル内で、裕人はつぶやいた。
このままカプセルの中にずっといるわけにもいかない。しかし、外に出ても安全なのだろうか。あの支配人は、ここが異空間だと言っていたが……。
意を決して、カプセルを内側から思い切り上に押すと、意外と簡単に出れた。
呼吸をしてみるが、今のところ大丈夫そうだ。
ここから先、どうするか。こんな所に一人きりでとても生きていける気がしない。
与えられたスキルも、『ゴミ生成』とかいう、文字通りゴミスキルだ。ゴミを生み出してどうしろというのだ。レベルが1ということは、レベルはあげられるのだろうか。あげられたとしても、ゴミのランクが上がるだけではないのか。
絶望感に打ちひしがれていると、不意に腹が鳴った。
こんな時でも腹は空くらしい。しかし、こんな場所で食べるものなどないのではないか。食べるとすれば、先ほど見かけた残飯とかの生ゴミくらいだ。
とりあえず、周囲を見て回る。
果物の皮、卵の殻、魚の骨や、貝殻、パンくず。他にも誰かの食べ残しと思われるものがそのまま捨てられたかのように、蒼い地面に広がっていた。
その食べ残しからいい匂いが漂ってきた。捨てられたばかりなのだろうか。いや、果物の皮やパンクズも捨てられて間もないような状態に見える。
しかも辺りを見渡すとそのような状態の残飯がそこら中に落ちていた。
腹がまた鳴った。廃棄された見知らぬ他人の食べ残しなど食べたくはない。食べたくはないが、腹は目の前の食料を欲している。
「……食えるのかコレは?」
裕人が摘み上げたものは、まだ温かい食いかけの骨付きの肉だった。ほんの二、三口齧ったような跡がある。
地面に落ちていたことといい、周囲がゴミだらけといい、とにかく衛生上、非常によろしくないのは間違いない。食べて腹をくだす確率がかなり高い気がした。……ただでさえ、お腹が弱いから食べるものには気をつけているのに。
腹がいい加減にしろとばかりにまた鳴った。
とにかく食べなければ、この先餓死するだけだ。裕人は思い切って、その肉にかぶりついた。
……肉質はかなり硬く、味つけもかなり薄い。温かいだけが何とか救いの、なんとも微妙なものだった。なるほど……これは、一口、二口で食べる気がなくなる。
とりあえず、その骨つき肉を手に持ちながら、他に食べれそうなものを探す。
他の残飯はどうだろう。一度拾い食いしたあとは、もう他も同じで、抵抗はかなりなくなっていた。
次に手にしたのは、サンマのような魚の食べ残しだった。これも一口齧っただけのようだ。すっかり冷めていたが、見た感じ食べれそうではある。
一口食べて──。
「うっわ! 身がパッサパッサ! 泥臭いし食えたもんじゃない!」
あまりの不味さに吐き出した。
この世界は、料理文化が発達していないのだろうか。残飯とはいえ、そう思わせるほどに酷い味だった。……たんに、料理初心者の失敗作なだけなのかもしれないが。
つぎに見つけたのは、萎びたリンゴのような果実だった。匂いを嗅ぐ。匂いを嗅ぐ。出涸らしのような見た目なのに、フルーティな匂いがした。
しかし、捨てられたものだ。匂いはいいが、果たしてどんな味がするのか。
「……今度こそ頼むぞ」そうつぶやいて、ひとくち齧る。
口の中に凝縮された果汁が溢れ出した。見た目と違ってなんとみずみずしい果実だろうか。これは元の世界でも食べたことがないほどの美味さだ。
あっという間に食べ終えて、他にも同じリンゴみたいな果実を探すと、木箱のようなものを見つけた。そこに、その果実は大量に入っていた。
裕人は喜び、その果実を貪るように食べた。
腹が膨れたところで、改めて辺りを見渡す。
ゴミが山になるほど捨てられている異空間。この世界の至る所で捨てられたゴミが、ここに集まってきているかのようだった。
何でこんなことになったのか。何で俺はここにいるのだろうか。裕人はもう一度ここまでの経緯を頭の中で整理し、そしてあまりの馬鹿馬鹿しさに笑い声をあげた。次第に、いつのまにか涙も溢れていた。
「……ちくしょう。何だって俺がこんな目にあっているんだ」
座り込み、膝を折ってその上で腕を組み、周囲の景色が見えないように顔を埋めた。
「誰か……助けてくれ」
助けを求めるも、こんな所に助けなどこない。クラスメイトたちは現世へと帰っていってしまった。
裕人はその蒼いゴミ空間で一人泣き続けた。
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