第7話 忘れられた者

 頭の中が真っ白になった。

「……ありえねー」

 クラスメイトたちが全員異世界召喚されて、いきなりやってきた魔神を、藤堂と雪代がチートスキルで滅ぼして、めでたく彼らは元の世界へと帰っていった。

 ガチャ内で、未だカプセルの中に入った比嘉裕人ただ一人を残して。

「嘘だろおい! こんなことあってたまるかよ! いろいろツッコミたいところだけど、何よりまず何で俺だけ取り残されてんだよ!」

 喚いてガチャカプセルの壁を叩く。その声が届いたのか、貴族の一人がこちらを見上げた。

「……おい。カプセルが一つ残ってるぞ?」

「何? あ、本当だ」

「でも、あいつら全員帰ったよな? 何であれだけ?」

 貴族たちが困惑して話し合っている。

「あ」声をあげたのは、フレアルドだった。

「あの者だけ、契約がなされておらん」

「あ」全員の声が重なった。

「……とりあえず、あの者を出してやろう」

 フレアルドは支配人に声をかけた。

「……なんか哀れだから無料で引きますね」

 そうして、裕人は支配人の手で最後のガチャとして排出された。

「こ、この色は!」

 そして、驚きの声が出る。

「嘘だろ……」「は、初めて見た」「この色が存在していたとは……」

 ひょっとして物凄いレア度なのか? そう思った次の瞬間には、それは否定された。

「なんて事だーーー! これもまた数百年間出たことのない幻の色! 究極のハズレだーーー!」

 支配人が笑いながら叫んだ。

「究極のハズレ……?」裕人はショックを受けた。

「さてさて、その能力は?」


───────────────


ヒガヒロト 十七歳 男

体力:G魔力:G素早さ:G運:G

称号:なし

加護:なし

スキル:ゴミ生成 レベル1


───────────────


「なんじゃこりゃーー! これは凄い! 最低がFランクのはずなのに、まさかその下があったとは! まさかのオールGランク! 称号もない! 加護もない! この世界の赤子ですら加護は一つ授かるのに、これはまさにゴミの中のゴミ! なるほど、GとはゴミのGってことか。ん? スキルが一つだけあるな。なになに? ……ゴミ生成? ぶっはははは! 何これ? ゴミがゴミスキル持ちってどこまでゴミなんだよ!」

 もの凄い言われようだ。

「……ゴミランクだろうとゴミスキルだろうと、今はこの際どうでも良い。俺を元の世界へと帰してくれ!」

 そう訴えると、フレアルドはため息をついて言った。

「あー、残念だが、おぬしは帰ることはできぬ。魔神は倒されこの世界は平和になった。契約紋を施したところで何の意味もなくなった。すなわち、帰る方法がなくなったということだ。まあ、運が良ければ数十年もすれば新たな魔神か魔王が出現するかもしれぬ。その時が来るのを待つが良い。もっとも、数百年は平和だろうがな」

「はあ? なんだよそれ! ふざけんな! 何で俺だけ残されるんだよ! 何とかしろよ!」

「貴様、王族に対して無礼だぞ!」

 お付きの貴族が怒鳴った。

「とにかくわたしの役目は済んだ。おぬしには悪いが、この世界で強く生きよ」

 そう言って、フレアルドは興味を無くした目をして、背を向けた。

「お、おい、ま、待ってくれよ!」

 裕人は慌てた。王族だという彼がいなくなれば、頼るものが無くなってしまう。

「俺が悪かったです! 無礼を働いてすいませんでした! だから、見捨てないで!」

 フレアルドはその言葉がまるで聞こえていないかのように、従者と何かを話ながら去って行った。

「……嘘だろ、おい」

 裕人は血の気が引いて、貧血でその場にうずくまった。

「いやー、最後に面白いもの見たな。コレがおまえたちの世界で言うオチってやつか」

「うむうむ。楽しませてもらった。コレ程のゴミキャラ、そうそう見られるものではない。だからと言って、絶対にいらないけどな」

「いらんいらん。奴隷にもならんし。こんなゴミ、捨てる以外どうしようもない。おい、支配人、これの処分はよろしくな」

 貴族たちは次々と、裕人と支配人を残して去って行った。

 それに支配人は頷いて、裕人を見た。

「さーて、どうしましょうかね、この生ゴミ」

「……お願いします。助けてください」

 懇願するが、支配人は「ふむ」と何か考える素ぶりを見せ、

「そういや、生き物はゴミ空間に捨てれないんだったっけ」

 と何やら不穏なことを言い出した。

「ご、ゴミ空間?」

「そ。この世界では、ゴミは異空間に捨てているんですよ。でも、生き物は捨てることができないんですよね。だから、捨てる場合は、ちゃんと生ゴミにしてから棄てるんですけど……」と裕人を見る。

 生き物を生ゴミにする……それはつまり、息の根を止めてから捨てるということか。

 身体から血の気が引き、絶望で目の前が暗くなる。

「あー、でも、このタキシード気に入ってるんですよ。汚したくないなー。……あ、待てよ。ひょっとしたら、契約してないカプセル状態のままだったら捨てれるかも。よし。ものは試しだ。やってみよう」

 支配人は手をかざして、裕人のカプセルへと向けた。

 裕人は必死にもう一度懇願した。

「お願いします! 助けてください! 何でもしますから!」

 支配人は、裕人を馬鹿にした笑みで見た。

「何でもする? 無理ですね。あなたのそのゴミステータスでは何もできません。ゴミはやはり処分しないと。あなた方の世界のゲームでも、ハズレキャラは売るか捨てるかするんでしょ? それと同じですよ」

「これはゲームじゃない!」

 支配人は、聞く耳持たないといったように、裕人の足元に魔法陣を完成させ、青い光を帯びさせた。

「な、なんだよこれ!」

「それはゴミを捨てる時に使う魔法陣です。この世界では、そこにゴミを捨てるのですよ」

 裕人のカプセルがそのまま魔法陣の中に沈んでいく。

「お、成功した。ゴミ空間も、あなたをゴミだと判断してくれたようですね」

「嫌だ! 助けて!」

「さようならー」

 にこやかな笑顔で、支配人が手を振った。

 裕人の叫びも虚しく、カプセルごと魔法陣へ飲み込まれていく。

「ちくしょおーーーーー!」

 裕人の叫び声が広場へと響き、そして消えた。

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