第3話 お金って大事


「金がねえ…」


今俺は金欠である。

趣味のギャンブルで手持ちの7割ほどをスッてしまったのだ。

依頼を受けようにもランク制限や安い仕事しかないのでその日暮らしも出来ない。

テーブルで突っ伏していると深くフードを被った男が話しかけてきた


「おやおや、困ってるみたいですねぇ。」

「…俺、交友関係を改めようかな。」

「ひどいなぁ。まるでボクが不審者みたいじゃないですか。」

「不審者だろ。」


この女は奇術使いのアリスト。

普段はマジックショーなどでお金を稼いでいるが、休みの日には冒険者をやっている変わり者だ。

ちなみに同じCランクだが俺より強くBランク目前まで行っている。


「で?本当にどうしたんですか?死にそうな顔をしてますけど。」

「金がねえ。」

「…またギャンブルですか。あなた才能がないからやめた方がいいですよ。」

「あとちょっとで勝てそうだったんだよ!イカサマだ!あんなの!」

「…世間ではあなたのような人をカモというんでしょうねぇ。」


なかなかひどい言い草だ。

間違ってないけど。


「ちなみにいくら逝ったんですか?」

「35万ギルス。」

「…馬鹿ですか?」


この世界の通貨はギルスと呼ばれていて、価値は日本円と同じだ。

つまり35万円負けた男とも言える。


「…しょうがないですね。仕事紹介しましょうか?」

「どんな仕事だ?」

「実験体。」

「…よし、明日から毎日パン1個だけど頑張るか。」

「冗談ですよ。でも仕事を手伝ってほしいのは本当です。」

「…どんな仕事だ?」

「レッドドラゴンモドキの討伐です。あなた得意でしょ?」


レッドドラゴンモドキはCランクに上がるためのクエストモンスターである。

たまにギルドから臨時パーティの依頼で倒すことが多いので慣れている俺に依頼を振ってきたのだろう。


「報酬の割り方は?」

「あなたが6でいいですよ。」

「オッケー、いつ出発だ?」

「この後すぐです。」

「…この後?」

「終わったら報酬とは別でご飯奢りますよ。」

「すぐ行こう。準備完了だ。」

「現金ですねぇ。」


そうして森を深く進んでいると何かがぶつかり合う音が聞こえた。

身を隠して覗いてみると見知った顔が暴れていた。

ガレフとグラッドだった。二人とも既にボロボロである。

「がはははは!やるじゃねえか!やっぱりうちに来いよ!」

「…うるさいですねっ!私はあいつみたいにフリーでやるのが好きなんですよ!」

「あいつっ!だと⁉ハーリットのことか⁉」


そんな会話が聞こえてくるとアリストはジトっとした目でこちらを見てくる。

「…あなたの知り合いのようですが。」

「気のせいだろ。」

「名前言ってましたよ。」

「同名の人いたんだ。会ってみたいわ。」

「…止めなくていいんですか?冒険者の規定でCランク以上は喧嘩の仲裁が義務でしょ。」

「筋肉とやべー奴を止めるのは無理でしたって一緒に証言してほしい。」

「お断りです。」


そんな非情なアリストに草むらから蹴り出されると二人がこちらに近づいてきた。

「ハーリットじゃねえか!今日はどうしたんだ?」

「…またお金なくなったんですか。」

「…ああギャンブルか。こいつも懲りねえな。」


二人からいたたまれない視線が送られてくる。

お前らよりはマシだと言い張りたいが、何かを言える立場ではないので黙っておく。


「あそこにいるアリストと仕事を受けに来たんだよ。」

「ほう?ターゲットは?」

「レッドドラゴンモドキ。」

「いいじゃねえか!オフだから手伝ってやるよ!」

「いいですね。私も手伝いましょう。」


そうして、臨時パーティを組んだ俺たちはあっけなく依頼をこなした。

報酬は山分けになった。お金ないのに。


そうして受け取った報酬を増やすべくカジノに向かうのであった。

「「「いや、行かせねえよ?」」」

羽交い絞めにされてお金は没収された。ご飯奢ってもらえたからいいけど。


その後、お金はすべてアリストに預かられた

アリストからは「毎日このお金から必要な分渡すのでそれで生活してください」と言われた。

「なんでそんなことしてくれんの?もしかして俺のことが好きとか?」

そう聞くと無言でボコボコにされた後に「あなたが死んだら私が講習とかやらなきゃいけないじゃないですか。めんどくさいんで生きててほしいんですよね。」と言われた。

その後、小さい声で「このクズエルフが。」と言われて俺は意識を手放した。


後日談だが、アリストから毎日お金を受け取っているところを見られて当分の間「同僚の女に金をせびってるヒモモドキ」と呼ばれるようになった。


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