第5話 再会
真っ白いポメラニアンは勇ましく声を上げた。
『長。優斗はオイラの友達なんだ。だから、若さを吸い取らないでくれよ!』
『ふぅむ。人間の子供と友達とはどういうことなのじゃ?』
『だってオイラたち……。な!』
え!?
いや……。
な! と当たり前みたいに言われても、
「ぼ、僕は、しゃべる犬なんて知らないけど?」
『おい、そりゃないぜ。優斗はオイラを助けてくれたんだ。おまえは命の恩人なんだよ。そんで、オイラたちは友達になったんじゃねぇか!』
「そ、そうなの!? しゃべる犬なんて初めて会うけど!?」
『あーー。あん時はしゃべれなかったからな。生まれて直ぐだからよぉ。へへへ。言葉なんて覚えてなかったんだよ』
「え? え?」
『まぁだ思い出さねぇのかよぉ!?』
と、白いポメラニアンは小さな尻尾を激しく振った。
この愛らしいモフモフ。もしや、
「おまえ……。シロか? 六年前に僕が拾った真っ白い子犬。あん時のシロか?」
『そうだよぉおおお! あん時はあんがとうな! 父ちゃんとはぐれちまってよぉ。いわゆる迷子ってやつだな。崖から落ちて傷だらけのところを優斗が助けてくれたんだよなぁ。あん時は生まれたばっかでさ。オイラはしゃべれなかったんだよぉおお!』
そ、そんなことがあったのか。
じゃあ、普通の犬だと思っていたのは妖怪の犬だったんだな。
「でも、すごいや! まさか、またシロに会えるなんて!」
『ナハハ! オイラもビックリしたぜ。近くで優斗の匂いがするからよぉ! 飛んで来たんだぜぇ!』
シロは僕の顔をペロペロと舐めた。
「ははは! シロォ!」
『あーー。ちなみにオイラの名前は
「あ、そうなんだね。ごめん、勝手に名前付けちゃったよ」
『別にいいぜ! シロって名前も気に入ってるしな!』
「これからは
『へへへ。また会えて嬉しいぜ! 優斗ぉ』
ペロペロと舐めてくる。
「ふふふ。くすぐったい。僕も会えて嬉しいよ」
瓢箪ネズミは不満げな顔をしていた。
『ううむ。
『そうだぜ長。優斗は特別待遇にしてくれよな』
『ふぅむ……。しかし、妙じゃなぁ? 普通の人間がこのネズミ神社には入れんのじゃがなぁ? 優斗とか言うたのぅ。お主はどうやってここへ来たんじゃ?』
どうって?
「三つ別れた道があってさ。一番右端の道を渡って来たんだけどね?」
『なんと! お主は龍の道が見えたのか!?』
「えーーと。小川ぞいの道のことかな? 龍の像から湧き水がチョロチョロ出てるもんね。あれが小川になって続いてたね」
『そうじゃよ。あの水は特殊でな。道を隠すんじゃよ。だから、普通の人間には見えないんじゃ』
「僕には見えたけど?」
『ふぅむ。不思議じゃのう?』
『優斗は妖怪と縁があるんだよ。オイラの命も助けてくれたしさぁ』
『ふぅむ。珍しい子供じゃな。こりゃ、益々、若さが欲しくなるわい』
『長ぁ……! そういうのは優斗が怖がるからやめてくれよな』
『ははは。そうじゃったなぁ』
そんな時。
外から小さな声が聞こえてきた。
『『『 長ぁ! 』』』
それは羽織りネズミより小さい。
真っ赤な金魚で、それに手足が付いていた。
そんなのが三匹も入ってくる。
『
『長。この辺に
『なんじゃと。ふぅむ。厄介や奴が現れよったなぁ』
新しい妖怪かな?
「ねぇ。
『人間を石にする悪い妖怪さ』
「そ、それは怖いね」
『体中に目が付いててさ。人間の女みたいな姿をしてんだよ』
え!?
「ここに来る途中でコート姿の女の人を見たよ。暑い日なのにさ。コートって不思議だったんだよね。その女の人の体には目がいっぱい付いててね。不気味だったなぁ」
『そいつが
じゃあ、あれは見間違いじゃなかったのかも。僕は目玉を葉っぱだと思っていたけどさ。
『お、襲われなかったのかよ!?
ひえええええ……。
石になるなんて怖すぎる。
「なんかさ……。ししもうこんって言ったあとに逃げた感じなんだよね」
『ああ。なるほど!』
「ししもうこんって呪文なの?」
『
「へぇ……。じゃあ、
『オイラは優斗の匂いを嗅ぎつけてここへ来たからな。
「じゃあ、二回も助けてもらったのか」
『ははは! 優斗がオイラの命を助けてくれたからじゃねぇか! あん時にオイラを拾ってくれなかったら、オイラが死んでたんだぜ』
「じゃあ、持ちつ持たれつ、てやつ?」
『そうそう。それにオイラたちは友達なんだからさ。助けるのは当然だぜ』
ああ、本当にあのシロなのか……。
『ああ、懐かしいな。一緒に風呂に入った時にさ。オイラと友達になりたいって言ってくれたもんな!』
「そんなこと……。まだ覚えてたの?」
『忘れるわけねぇじゃん。オイラの初めての友達なんだからさ』
その時。
外の方からはカナカナカナというセミの鳴き声が聞こえてきた。
あれはヒグラシだ。
もう夕方になっちゃうな。
「僕。帰らなくちゃ』
長は腕を組んだ。
『ふぅむ。
「はい。たくさんの目が、僕の目と合っちゃいました」
『ふぅむ。
僕の全身にゾゾゾ〜〜っと鳥肌が立つ。
そんな怖い妖怪に目をつけられたんじゃ、夜もグッスリ寝れないよぉ。
『安心しろよ優斗。オイラが守ってやるからさ』
「どうやって守ってくれるの?」
『一緒に暮らせばいいじゃねぇか』
「え!?」
ま、また
それは嬉しいけど……。
「君の家族は心配しないの?」
『父ちゃんにさ。優斗と暮らしていいか、聞いてみるよ』
「う、うん」
『父ちゃーーん。父ちゃーーん!』
すると、ズシーーン、ズシーーン、と大きな足音がなったかと思うと、辺り一面が暗くなった。
「あれ? もう日が暮れたのかな?」
そう思って外に出ると、そこには大きな
「デ、デカイ……」
10メートル以上はあるだろうか。
キリンが五メートルだから、二倍以上の高さがあるね。
真っ白い毛の塊。巨体な
その前で小さな
「父ちゃん! あいつが優斗だぜ! いっつも話してただろ。オイラの友達だぜ。へへへ」
どうやら、この大きいのが
なにも言わないけど、ありがとうって言ってるみたい。
僕も応えるように頭を下げた。
「ど、ども……」
『なぁ、父ちゃん。優斗が
『そうか! ありがとな!』
ん?
なにか会話があったのかな?
僕にはまったく聞き取れなかったけど?
『へへへ。息子をお願いします。だってさ』
「え? そんな話しをしてたの?」
お父さんがもう一度ゆっくりとお辞儀をするので、僕もぺこりとお辞儀を返した。
ズシーーン、ズシーーン。
大きな足音を立てて、
『今日から一緒に暮らせるぜ。へへへ』
妖怪って不思議な存在だな。
「じゃあ帰ろうか。
『おう!』
ああ、この森にはタガメを撮りに来たんだけどなぁ。
まさか、妖怪を拾って来ることになるなんて、思いもしなかったよ。
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