第4話 妖怪


「ネ、ネズミ!?」


 今、ネズミが着物を着ていたよ! 

 隠れて見えなくなっちゃったけどさ。

 花柄の色鮮やかな着物を着たネズミ。


 神社の中に入っちゃった。


 こ、これは気になるな。


 僕は神社の中に入ることにした。


「お、お邪魔しまーーす」


 神社の中は薄暗い。

 カビ臭くてじめッとしてる。

 でも、木とお線香の匂いもして、僕は結構好きだったりする。

 足を一歩踏み入れると、ミシィイイ〜〜って木の床が鳴った。


『クスクス。こっちさ。こっち』


 この声はネズミなんだろうか?


 歩くたんびに、ギシィイイ、ミシィイイっと床が鳴る。


 うう。

 古い建物だからなんかちょっと怖いよね。


サササーーーーッ!!


 と、壁沿いに、小さななにかが動く。


 それが止まると、僕と目が合った。


「うわっ! やっぱりネズミだ!」


 派手な着物を着てるぞ!


 と、思うやいなや。

 僕の体はひっくり返った。


「え!? 逆さまになった!?」


 え!? 上に床が見えるぞ!?


 不思議なことに、僕の両足は天井にしっかりと付いていた。

 でも、髪は逆立って今にも下に落ちそうだ。


「な、なんで!?」


 床から大きな目玉がニョキっと出て来た。


「え!? え!? か、カタツムリみたいな目玉だ!」


 目玉はしゃべった。


『オラは『逆さベッタラ』。オラの好物を当ててみな』


「こ、好物ってなんのこと?」


『好きな食べ物さね。さぁ、当ててみな。当てねぇと。ずっと逆さまにしてやるからな』


 ええええ!?

 ずっと逆さまは困るよ。


 好きな食べ物って言われてもわからないよね。


 えっと……僕なら……。


「ラーメンとか?」


『なんだよそれ?』


「カ、カレーライス」


『知らねぇな』


「ハンバーグは?」


『見たこともねぇよ』


 難しいな。

 あーー。でも日本の古い料理とかならわかるのかな?

 昔の料理。昔の料理ぃ……。


「お味噌汁!」


『おお。そいつは知ってるぜ。でも、オラの好きなもんじゃねぇな』


 ああ違うのかぁ。

 昔の料理なら知ってるようだけど、僕はそんなに知らないしなぁ。


「ヒント欲しいです」


『ひんとってなんだい? オラは日本語しかわからねぇぞ』


 ヒントって英語かもしれないな。

 えーーと。


「答えの手がかりになりそうなことです」


『ああ、だったらオラの名前だな。わっかんねぇだろうなぁ』


「名前? さかさ……なんだっけ?」


『オラは、逆さベッタラだ』


 逆さベッタラ……。つまり、逆さまのベッタラってことか。

 ベッタラって東京を代表とする名産品だよね。ベッタラ漬けは大根の漬物って意味だ。だから、


「大根」


『うわ! なんだよ! 当てちまうのかよ! おめぇただもんじゃねぇな』


クルリン。


 僕の体は元の位置に戻った。


 良かったぁ。


「あのままずっと逆さまのままだったら頭に血が回っちゃうよね」


 あー良かった。

 どうやら正解みたいだ。


 床から出ていた目ん玉は、ニョキっと這い出した。

 その体は大根その物。


『オラは100年生きた大根なんだ』


 へぇ……。

 大根も、そんなに長く成長したら言葉をしゃべるのかな?


『仕方ねぇな。おさに会うことを許してやるよ』


 おさ?


『おさってなんですか?』


『長は長じゃねぇか』


 そう言って、床の中に潜ってしまった。


 木の床は隙間なんかないしな。

 大根が床の中に消えちゃうなんて不思議だなぁ。


 そう思っていると、ニョッキと2つの目ん玉が出た。


『長はあっちだで。ホラ。会って来いよ』


 目ん玉が見ている方向。

 そこには大きな瓢箪ひょうたんがあった。

 2メートルは超えているだろう。

 見上げるほどに大きい。


「こんなデッカイ瓢箪、見たことないや」


 すると、瓢箪の口から大きなネズミが顔を出した。

 それは60センチほどの大きさで、立派な紋付き袴もんつきはかまを着ていた。


羽織はおりネズミが連れ込んだから、どんな人間かと思ったが、子供ではないか』


 うわぁ。

 なんて答えたらいいのかわからない。

 大きいネズミもすごいし、話してるのもすごい。紋付き袴を着込んでるのだってすごすぎるぞ。


 こういうのは、もしかして……。


「あの……。ネズミさんは妖怪ですか?」


わしはこの辺の長をやっておる。瓢箪ネズミじゃ』


 えーーと。


「おさってなんですか?」


『長も知らんのか? 子供じゃのう』


「11歳なので、まだ子供です」


『人間の世界じゃあ、リーダーとか言う意味じゃな。団体の中で一番偉い人じゃよ』


「ああ! じゃあ、この辺の妖怪で、瓢箪ネズミさんがリーダーってことですか?」


『そういうことじゃな』


 おお!

 なんかすごい妖怪と出会えたぞ。


わしは100年生きたネズミじゃよ。ネズミはな。30年も生きれば言葉も話すし服も着る。おまえを案内したのは羽織りネズミじゃよ』


 すごいな。


「じゃあ、この神社は妖怪の棲家なんだ」


 僕は妖怪と友達になってしまったのか。これはビッグニュースだぞ。牛田だって妖怪の友達はいないだろう。ふふふ。


 長は瓢箪を登ったり降りたりを繰り返す。


『さてはて。どうやって若さを吸い取ってやろうかの? 煮て吸うか。焼いて吸うか?』


「え? な、なんのことですか?」


『おまえの若さを吸い取るんじゃよ』


「ええええ!? そんなことをされたら、おじいちゃんになっちゃう!」


『だから、この社に入ったのじゃろう。神隠しって聞いたことないかの?』


「あ、ありますよ。急に行方不明になることでしょ? 原因がわからないんだ」


『ククク。でも、ひょっこりと現れることがある。おまえさんの場合は、そうじゃのう60年後くらいには家に帰れるかの』


「えええええ!? 母さんが心配するので無理ですぅ!!」


今宵こよいうたげじゃわい。おまえさんの若さをさかなにしてな。みんなで酒を飲むんじゃよ』


「ひぃいいい!!」


 僕は急に怖くなった。

 妖怪って怖いんだ!


 急いで引き返す。

 でも、さっきまで開いていた扉はバタンと閉まって、うんともすんともいわなくなった。


「ええ!? どうして開かないの!?」


『逃げられるもんかい。さぁ、どうやって若さを吸い取ってやろうかねぇ。ヒヒヒ。おまえの若さはさぞかし美味かろうて』


「うわぁああッ!! 誰かぁ!!」


 長は大きな瓢箪を横に倒した。


『瓢箪の口を見るんじゃ。ほぉら、おまえさんの若さを吸い取っちまうぞぉ』


 その瓢箪は、まるで掃除機のように空気を吸った。キュオオオという音とともに僕の若さを吸おうとしている。


『さぁ。もっと近くに来い。若さを吸い取ってやろう』


「嫌だぁあああああああッ!!」


 すると、扉がブワッと開いて白い物体が飛び込んできた。


『待ってくれ長! 優斗はオイラの友達なんだ!!』


 え? え?

 と、友達ぃ?


 それはポメラニアンのような白い毛をした小型犬だった。


『オイラの友達から若さを吸い取るのはやめてくれ!』


 い、犬がしゃべってる!?

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