第7話 カナデ様とアキラ
結婚式でベールを捲られると、そこには。
(あっ!)
唯一の女友達が、男性になって新郎をやっていた。
向こうも気づいたらしい。
二人して固まり、式の参列者はよもや破談になるのではとちいさな揺らぎを見せたが。
なんとか持ち堪えた。
この世界では誓いのキスは破廉恥(ジャンヌより)でいわゆる夫婦のあれこれは完全に二人きりの時に屋敷の人間が全員出払うくらい、静かに行われるものらしい。いいのか、そんな無防備で。
だからジャンヌのような暗殺に特化(本人談)した人間が一人、二人配置されて大地主だとか、ちょっと小金持ちの家は警戒するらしい。
まあ、外の手前で親族はちゃっかりお祭り騒ぎをするらしく、静かなのは夫婦の寝室。うるさいのは玄関ホール、みたいな。
そして。
「カナデだよね?」
「姿は君だけどね、ぼくだよ」
「わたし、もう、何が何だか、最近夢の中だと男の人で、しかも外見がカナデなの!」
「真剣なところ悪いけどオネエ言葉みたいになってるよ」
「カナデはどうしてそんな落ち着いてるの」
「実はジャンヌっていう聖女様に女になって幸せに生きる道を用意してもらったから」
「本気?」
「いまのところはそう聞いてる」
「いま、今どういう状況?」
「ぼくがアキラに嫁入りしたところ。後妻に虐められてたところをお父上が良縁を結んでくださり、晴れて結婚。そして、煌びやかな式の後、ふたりきり。これからめくるめくセカンドライフが始まる」
「無理無理無理無理」
唯一の女友達で今はぼくの姿になっているアキラが情けない声で言う。
「これって、初夜じゃない?」
「そう。でも、聖女ジャンヌが言うには無理にしないでむしろ一緒にうたた寝するくらいがこの世界のこの国では平和というか、夫婦の長続きの秘訣らしいよ」
「ほんとに?!しんじる!」
アキラはふかふかの真っ赤な生地に金糸の刺繍の布団に潜ってしまった。
寝れば帰れる寝れば帰れる寝れば帰れる、と繰り返している。
「アキラ、実際どう思う?」
アキラが止まる。
「こっちで暮らした方がぼくは幸せかな。今の所、女として育ってきたから刺繍も詩もダンスもティータイムも苦じゃないんだよね、わたし」
「ええ?」
「それ、わたしはどうするの?このままカナデの旦那様で貿易とかしなきゃなの?向こうの生活は?毎日こんな夢ばっかじゃ向こうの生活は滅茶苦茶よ。現に今おかしくなったのかと思って休んでるし」
「そこは、聖女ジャンヌに聞いてみよう。とりあえず、きょうはこのままうたた寝です」
「あー!課題が!あー、もう、寝る!寝て早く起きる!向こうで!」
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