第6話 いざ、夢から婚姻。結婚式へ。

目が覚めたら、再び。同じ、いつもと変わらぬ身体で大学へ行った。大学は合宿とかプールとかそういうのとは無縁の奴らとつるんでる。

変な夢を見てから唯一の女友達の元へ行ったら、なんだか具合が悪いらしく会えなかった。

そして、あのねむねむタイム。

「カナデ様、お綺麗です。わあ、ほんとうに、夜空に深夜の星々を散りばめて留めたよう。胸元なんて特に意匠が凝らしてありますね。複雑な刺繍に、ここも黒曜石でしょうか?うんと磨かれています!」

胸はぺったんこ。

それでもジャンヌが称するドレスと、あとはダイヤモンドを細かく散りばめた透明なベール。

見たこともない夜の種族の婚姻衣装だ。

悪い気はしない。これが、おんな。ファッションを楽しむもの。

「カナデ様、ここでは辛い思いばかりだったかもしれませんが、むこうではたくさん、わがままを言いましょうね!」

「辛い思い?」

そうですよ!ジャンヌは太もものナイフに手を添えながら、

「奥様ったら、わざと古くなったお菓子や、ぬるくなったお茶をカナデ様に勧めますし!それだって何が入っているか!でも食さないわけにはいかないというので私が試しに半分に割ってお菓子を観察したらカナデ様の食べられない果実を使ってあった品だったり!お茶は冷たいし、流石に濁ってはいないので新鮮な水だとは思いますが!おまけにあの忌まわしい魔法!歩いている時に地面を操作してカナデ様を何度も転ばせてくる!それしか使えないらしいですがカナデ様の数少ないドレスが何度も土に汚れてッ!」

おまけにお嬢様と呼ぶと咎められるんですよ?!先妻の子だからお嬢様なんて烏滸がましいと!

という、ことらしい。

なんだか、カナデ様たる自分とジャンヌは苦労している。

「そんなにわたしを守ってくれてありがとう。他に辛い思いをした人は?」

「ご主人様が、せめてカナデ様には良い縁談を、とこの度の婚姻を!ああ、晴れて迎えられてよかったです。後妻が何かしてくるんじゃないかとヒヤヒヤしました」

ジャンヌの口調もだいぶ危なっかしいものだ。

「ジャンヌ、あなた、わたしがあたなは貴女になったのです、みたいなことを言っていたけれど。その、どういうこと?」

「夜空の向こう側の話でございます。カナデ様」

ジャンヌは慈しむような傷ついた瞳でわたしというか俺を見る。

「定まらぬ自己の悩みに、この星の末裔のジャンヌは気づかせていただきました。カナデ様は、夜空の向こうでは何人にもなれるお方。しかし、いつも悩んでらっしゃった」

裁縫箱を片付けながらジャンヌは続ける。

「だから、祈ったのです。こちらで婚姻を結び嫁入りをすればカナデ様は、女性として、こちらでずっと過ごしてきた性を受け入れて過ごしていける、と。カナデ様。どうか、このジャンヌと共に星の巡りをいたしませんか?カナデ様に拾っていただいた、この星の末裔の力。ぜひ、生涯貴女様のために使いたい。たとえ、それが寿命を縮めるとしても」

「長くてびっくりしたけど、わたしのために祈ると命が縮むの?!」

「いいえ!たとえです!」笑顔で太い三つ編みを揺らしてジャンヌはまち針の数を確認している。

「要するに、鏡の世界みたいなもの?わたしと、向こうのどちらでもないオレ。どちらかなら女であることも結婚も決まっている、このジャンヌがいる世界を選べと……」

「両方でいいのです!さあ、ご主人様、それとも旦那様とお呼びになりますか?向こうの家柄も格式も大して変わりません!カナデ様のお父上がたくさん、贈り物や持参金を用意してくれたので、ウハウハという奴なはずです!どんな方かはカナデ様?覚えてらっしゃいますか?」

「この身体の記憶で少しなんというか、淡い人、という感じ」

「そうです、髪色が綺麗な湖のような水色で繊細な外見に決断力は強いとか!替え玉じゃなければいいのですが。その時はこのジャンヌめがカナデ様を攫います!大丈夫!二人くらいなら協力して生きていけますから!」

再びのハーネスに吊るされた収納ナイフを撫でる手。

「初夜は勘弁かな。気持ちが男寄りなんだ。だから、とりあえず結婚式だけ済ましたら、また元の生活に戻りたい」

「カナデ様の仰せのままに……」

ジャンヌは静々と最後のドレスの調整をして部屋の扉の前へ立つ。

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