第47話 オオグレの森2

 翌日、ユールイジ団と中野充を連れてオオグレの森に向かう。

 森に近づくにつれ中野充の顔色が悪くなっていく。

 「大丈夫?馬車酔い?」

 彼は首を振る。


 「ちょっとこの前の死体を思い出して……」

 あんた昨日から『死体死体』って、感じ悪い言い方やな。

 「死体を見たって……、何をしに森に行ったんだ?野獣討伐は初めてだろ?」

 セドルが中野充に聞く。


 マズイ!

 この質問……。

 「護衛部隊の……、うっ……」

 本日一発目のグーパンチだ!

 こいつは!!


 「護衛部隊?中野さん護衛部隊なのか?じゃ、魔法が使えるのか?」

 「あぁ、一応ライトセーバーが出せるぞ!!」

 嬉しそうに話す中野充と違い、セドル達は頭に『?』マークを付けている。


 「ラ……イト……セー……バ……ァ?」

 そうなるよな。

 「見せようか?」 

 そう言う彼の前胸部を手の甲で叩く。


 「何?」

 「こんな馬車の中で出したら危ないやろ!」

 考えろ!!

 「あぁ……」

 と、彼が頷く。


 いつもの場所に馬車を止め、森の奥に入って行く。

 私は千里眼魔法と魔法感知で野獣を探しセドル達に伝えると、彼らは発見したオドガザスの元に行き矢を射る。

 中野充は野獣討伐の仕方を馬車で聞いていたが、初めは見学と言われているので遠くから見ている。


 解体中に二体目のオドガザスが接近中!

 解体班と討伐班に分かれ二体目ゲット!!

 二体の解体が終わって更に森の奥に移動する。


 本日の目的はイーエルだからな。

 中野充が欲しいと言う収納ボックスはイーエルの眼石で作るからである。

 もしブレスレットも欲しいと言うと心石も必要になる。

 結局、イーエルを討伐しなければどれも作れないのだ。

 

 暫く歩くとイーエルを発見!!

 直ぐセドル達に伝える。

 いつものように剣を構える者と矢を構える者に別れ、イーエルが来るのを待つ。

 何故か、中野充もライトセーバーを出して構えている。

 そのライトセーバーは飛ばせるのか?


 木の上からイーエルが顔を出しながらこちらに向かって来た瞬間、中野充がライトセーバーをイーエル目掛けて伸ばす。

 「!!」

 全員がその光景に驚き一瞬動きが止まる。


 「俺のライトセーバーは伸びるんだぞ!!」

 自慢げに言うが、伸びたライトセーバーはイーエルを貫くことはなく、体制を崩しただけであった。

 バランスを崩したイーエルが中野充に向かって腕を振り降ろす。


 勿論、彼がその腕を避けられる訳もなくその場に立ち尽くしたまま固まるから、私が風魔法で彼の体を後ろに飛ばして回避させる。

 対象物がいなくなり空振りしてしまったイーエルが更にバランスを崩し両腕を大きく振る形となったため、周りに突風が吹き荒れてしまう。


 全員咄嗟にイーエルから離れるが、セドルは中野充をカバーしようとイーエルに近づきすぎていたため突風に煽られ地面に叩きつけられる。

 私は中野充に意識が向いていて、彼に気付くのが遅れる。


 セドルが地面に叩きつけられるのを目にしながら、イーエルの額に光の矢を連射する。

 イーエルが倒れるのは地面の地響きで確認しながらセドルの元に走る。

 「セドル!!」

 

 頭や背中を強く打ちつけた筈だ。

 頭部は勿論のこと、全身の骨折や内臓破裂を起こしている可能性が高い。

 直ぐ回復魔法で治療しないと……。


 両手をセドルの体に翳し回復魔法を掛けるが頭からの血が止まらない。

 「うそ……。お願いセドル。死なないで」

 どうしよう……。私が彼らに防御壁を覆っていなかったからだ。

 何の為にブレスレットに防御魔法を付与したのよ。


 「セドル……。お願い……。死なないで」

 私の回復魔法では治せないのかセドルの息が弱くなっていく。

 お願い!死なないで!!

 涙が溢れて来てセドルが霞んでくる。

 

 お願い……。お願い……。

 誰か……。セドルを助けて。

 お願い……。

 誰かー!!


 心に中で叫びながら治療を続ける。

 涙が溢れて前が見えないが、拭うと回復魔法が弱まるかもしれないので光の流れが確認できないけど治療を続ける。

 その時!


 ストン!!


 !!!


 何かが上から落ちてきた。

 落ちた方に目をやると、セドルの足元にいつぞやのウォットがいる。

 ウォットはセドルをジーッと見た後、私を見る。

 目と目が合ったかと思うと、ウォットは私の横に座り同じように前足をセドルの体の上に翳す。


 何をするつもりかと思った時、ウォットの前足から金色の光が出てきて私の白い光と絡むようにセドルの体を包み込む。

 交わった光は徐々に金色が多くなり、最後は金一色になってセドルの体に吸収されていく。


 体が金色で覆われて暫くした時、ウォットが突然セドルの胸を強く叩くように飛び乗った。


 !!!


 何?

 何したの?

 ウォットは胸に前足を置いた状態でセドルのお腹の上に座っている。


 心臓マッサージか?

 それともカウンターショックか?

 電気走っている感じはしなかったが……。


 ウォットの行動は『?』であるが、金色の光が薄くなってきた時セドルが目を開けた。

 「セドル!!」

 「セドル!」

 全員がセドルの名前を呼ぶが誰も傍に来ない。


 「セドル……、良かった……」

 セドルはゆっくり周りを見て、小さな悲鳴を上げる。

 「ヒッ!」

 お腹の上のウォットと目が合ったからだ。


 驚いて上半身を起した際、ウォットがコロンと地面に転がる。


 「セドル!良かった!生きていてくれてありがとう。」

 セドルにしがみ付き大泣きしてしまう。

 良かった。

 本当に良かった。


 「またゆきに助けて貰ったな。ありがとう」

 そう声を掛けられハッと気付く。

 助けたのは私ではない。

 ウォットだ。


 そう思い、泣いた顔を上げてウォット見て気付いたが、皆はかなり遠くから私達を見ている。

 何でだ?

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