第48話 オオグレの森3

 「彼を助けてくれてありがとう。本当にありがとう」

 ウォットを抱きしめてお礼を言い、また涙が溢れてくる。

 本当に助かって良かった。

 もしセドルが命を落としていたら立ち直れなかったよ。


 ウォットに感謝だ。

 泣いている間、ウォットは動くことなく抱きしめられていた。

 一通り泣いて落ち着いたところで、改めてウォットにお礼を言って体を離す。

 「ありがとう。私の名前はゆき。あなたのお名前は?」


 ウォットは小首を傾げて私を見る。

 可愛い!!

 「お名前ないの?」

 また、小首を傾げる。


 ヤバい。

 メッチャ可愛いかも。

 「じゃ、あなたの名前はシロ。綺麗な白い毛をしているからシロね。宜しく、シロ」

 手を出すとウォットが両前足を掌に乗せて来た。

 と、同時にウォットの体が一瞬白く光る。


 ???

 光った?

 今、白く光ったよね?

 何?


 手の平に乗せていた前足で突然私のブレスレットを触って叩きだす。

 「何?」

 ブレスレット?

 何だろう?


 「どうしたの?」

 声を掛けると叩くのを止めて私を見上げてきたが、直ぐブレスレットを叩く。

 何?

 「まさか、これ欲しいの?」

 まさかね。


 冗談のつもりで聞いたが、シロは首を縦に振りブレスレットに手を置く。

 ブレスレットが欲しいと言われても……。

 あっ!!

 私は以前、携帯電話に付けようと作ったストラップを思い出す。


 収納ボックスからストラップを一つ出して、シロの左前足に付ける。

 シロは嵌めたストラップを右前足で摩り喜んでいるその時、内ポケットからマヌが出てきて私のブレスレットに両羽を打ち付けて来る。

 おいおい!!


 まさかあんたも欲しいとか?

 「マヌも欲しいの?」

 聞くと、マヌも首を縦に振って左の羽を出してくる。

 マジか……。 


 羽にストラップは……。

 もし、ストラップを付けた瞬間羽がクシュッとゴムが締まるみたいになったら飛べなくなるよな。

 しかも、嵌めると本人しか外せないと言っていたから、不具合があったらマヌが自分で外さないといけなくなるけど、鳥は外せないよな。


 考えてマヌの左足にストラップを付ける。

 「マヌは足ね。白い羽に柄は付けたくないからね」

 足に付けたストラップが気に入ったようで私の周りを飛び回る。

 「シロ、今日は本当に助けてくれてありがとう。気を付けて帰ってね」


 そう言ってシロの両頬を撫でると、またまた小首を傾げる。

 可愛いな。

 「じゃあね」

 手を振ってお別れを言うとシロは小首を傾げながら森の奥にトボトボ歩いて行く。


 少し歩くと私達の方を見るから手を振って見送る。

 何度か小首を傾げながらこっちを見て、ある程度離れたら森に向かって走って『ドンッ』防御壁にぶつかってコロンと地面に転がる。

 あっ、ごめん。

 

 イーエルを討伐中に他の野獣に襲われたら困るから防御壁を張っていたんだった。

 毎回ごめん。

 シロはムクット起き上がり木の枝に飛び移って森の奥に消えて行く。


 「あれ、ウォットだよな?」

 皆がシロの去った方向を見ながらセドルに近寄ってくる。

 今?

 セドルの意識が戻った時に来るべきだろ!!

 と、言いたいがウォットは野獣だから仕方ないか。


 「ウォットって本当に絵本と同じだったな」

 皆が口々にウォットの話をする。

 「人を襲わないって本当だったんだな」


 イヤイヤ、襲うから。

 殺すところ見たし。

 「なぁ、ゆきさんあれ何?」

 中野充が木の枝に止まっているマヌを指差し聞いてくる。


 「あれはマヌ。何かは解らないけど、討伐した野獣の中にあった卵から生まれたから野獣?」

 「えっ??野獣?……って、聞かれても……」

 中野さんと話しているとセドル達が会話に入ってくる。


 「卵?」

 「野獣から卵が出たのか?」

 「マジで卵が出ることあるんだ」

 皆、謎が解けた感じで話している。


 本日の討伐は中止し帰路に着く。

 中野充が赤いブレスレットは付けたくないと言うからイーエルの眼石を一つ渡す。

 他の勝利品は換金して五人で割るように言うが、律儀なのか結局七人で割ってくれた。

 中野ぉ~、あんたは正直迷惑掛けただけだろうが!!


 皆、人がいいな。

 眼石を持ってジェフの店に行き魔道具を作って貰うのだが、中野充はどんな形がいいか見当も付かないようで全然決まらない。

 体に付ける必要があるから指輪やネックレス、イヤリング……、いや、イヤリングは収納ボックスにするには使い勝手が悪い。


 ブレスレットを拒否するから、ジェフに半強制的に指輪を進められ、中野充は渋々納得する。

 石の色は加工の段階で変えられるから、心石を黒にして貰えばブレスレットでも問題なかったと思うが……。

 まぁ、心石も貰おうなんて厚かましいけどね。


 因みに私のブレスレットは赤で、収納ボックスの一つ目は黄色、二つ目は緑だ。

 信号機カラーだな。はっははは……。


 中野充が黒の指輪で依頼を済ませた後、昨日同様、宿の裏でユールイジ団のメンバーと飲んでから王宮に帰る。

 中野充って直ぐ皆に溶け込んで、凄いな。

 何だかんだ護衛部の人とも仲良くなっているし、これって特技の一つだなと感心してしまう。


 池に降りて歩いていると突然中野充が握り拳を天に向けて宣言する。

 「俺、マジで飛ぶ練習するわ!!」

 ……頑張れ!


 「中級と上級の風魔法も送ろうか?」

 携帯電話を内ポケットから取り出し中野さんに聞く。

 「飛ぶには上級まで練習がいるのか?」

 「知らんし」

 「だよな」


 歩きながら風魔法をラインで送る。

 『歩きスマホは駄目やろっ!』って言われそうだが、ここにはぶつかる物がないから大目に見て貰おう。

 中央階段から上がり彼とは別れて部屋に入る。


 「ひっ!!」


 暗い部屋で山形美緒が椅子に座り、テーブルに顎を乗せた状態でこっちを見ている。

 こ……怖い……。

 「や……山形さん……?」

 「お姉〜さん」

 顔は上げずに泣きそうな声で呼んでくる。


 何?

 何があった?

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