第45話 卵5
マヌが生まれてから殆ど内ポケットで寝ている。
まぁ、寝る子は育つと言うが、野獣もそうなのかな?
夜ポケットから出してベッドに置くと、傍にきて手を吸ってくる。
でも、初めのように体が光ったりはしない。
あの光は何だったのかな?
何か疲れたな。
飲みに行きたい。
ビール飲みたいなぁ~。
よし、飲みに行こう!!
早速、出かける準備をしているとマヌが飛んで来て自分から内ポケットに入ってきた。
……?
ベッドに置いたマヌがクローゼットまで飛んだ?
確かに飛んだな。
ってことはやっぱり鳥?
でも、羽がまだ生えきっていないのに飛べるの?
野獣だから?
野獣だから何でもありだよな。
考えても答えは出ないし、どうでもいいや。
細かいことは気にせず部屋を出て、中央階段を降りると中野充に会う。
「あれ?ゆきさんどこ行くの?」
「……」
返答に一瞬躊躇した。
「飲みに行こうかと思って」
「飲みに?俺も行きたい!!」
そう言うと思ったわ。
「あんた、飛べないでしょう」
「飛べない」
おい、何普通に『飛べない』とか言うてんの?
ったく、仕方ないな。
「じゃ、一緒に行こう」
そう言って一緒に池に行く。
「池?」
「そう。ここから飛んで町に行くから」
「こっから飛んで??」
中野さんが飛べないことは知っている。
だから私が彼を運ぶしかない。
「一緒に飛ぶよ」
中野充の手を取って体を浮かせ、自分も一緒に浮いてそのまま町に向かって飛んで行く。
「わぁー!!初めて飛んだ!!」
そうだろう。あんた浮遊魔法の練習をしないからな。
「気持ちいいな」
そう思うなら練習しろ!
中野充はキョロキョロと町を眺めたり、後ろを振り向き小さくなる王宮を見たりと空の散歩を楽しんでいる。
セドルの時とは違って、彼は飛ぶことを楽しんでいる。
まぁ、私も飛ぶのは楽しいけど!!
街灯がなく人がいない場所に降り、市場まで歩く。
「暗い道だな」
中野充は横でそわそわと、落ち着かない様子でついてくる。
そう、町で働いて知ったのだが、ライトは王宮にしかないのだ。
宿の客室にはランプが置かれていて、街灯は時間になると柱のランプに火が付くようになっている。
街灯は庶民の市場には少ないが、以前馬車で行った綺麗な市場、そう貴族屋敷近くの市場は等間隔で街灯が並んでいて若干明るい。
これは差別というやつか?
「ゆき」
後ろから声を掛けられ振り向くとジェフが立っている。
「ジェフ」
「旦那か?」
!!!
「ちがーう!!」
中野充と同時に全否定する。
「あ……、そう……か……」
ジェフが申し訳なかったと謝る。
「彼はただの知り合いです」
中野充を指差し答える。
「そうです。俺はただの知り合いで……。知り合い?」
知り合いと言う言葉に疑問を持ったようで、私を見て聞き返してくる。
「知り合いだよね?他人?」
「いやいや、友達だろ?」
「……あぁ……」
どっちでもいいやん。
そこ拘る?
「ジェフは今帰り?」
「あぁ、ゆきは?何処行くんだ?」
「飲みに行こうと思って店を探しているところ」
「飲みに?」
それじゃと別れようとしたら呼び止められる。
「店を探しているなら付いて来て!」
中野充と顔を見合わせジェフに付いて行く。
「ここは……」
宿の裏……?
「こっちだ」
裏から厨房の方に回ると焚火の前の椅子に座っているケイブがいる。
椅子の横には小さなテーブルがあり、ワインとお皿に盛られた料理が置いてある。
「父さん」
呼ばれて顔を上げたケイブは私を見て驚く。
「ん?ゆき、旦那か?」
「ちっがーう!!」
またしても、中野充とハモってしまった。
「友達です!」
今度は友達と伝える。
厨房から出て来たセドルと目が合った。
嫌な予感がする。
「あれ、ゆき?旦那も一緒……」
やっぱり。
「違う!!」
彼が言い終わる前に否定する。
「えっ……、そ……そう……」
セドルは余計な事を言ったのかと口ごもる。
「二人ともそこに座るといい」
ケイブが椅子を指して私達に声を掛けてくる。
座りながら中野充の耳元で勇者と王宮のことは話すなと伝える。
彼はチラッと私を見て何度か軽く頷く。
本当に解ったのか?
不安だ。
「セドルはいつ帰ってきたの?」
「昼だよ」
セドルが帰って来たと言うことは明日から仕事に行かないといけないのか?
一応今月は休むように言われたが……。
確認しとかなきゃ。
そんなことを考えていたらジェフがグラスを持って来てくれた。
受け取るとケイブがワインを注いでくれる。
ワインか……。
ビールがいいけどな。
ここに来てからビールって見たことがない。
料理はお店で出している物を少しずつ持って来てテーブルに並べている。
「美味しい!!」
中野充が驚いたように言う。
そう、ここの料理は本当に美味しいのだ。
「二人はどういう知り合いなんだい?」
ケイブが聞いてくる。
「俺達一緒にしょうか……、うっ!」
中野充の脇腹に一発グーパンチをお見舞いし、耳元で脅す。
「シバくで」
今、『召喚』って言おうしただろと睨む。
「は……い……」
彼は脇腹を押えながら小声で返事する。
「私達、遠くから一緒にここに来ました」
「遠くから?」
ジェフがどの辺りか聞いて来る。
面倒臭いなと思っていると中野充が答える。
「異世か……うっ!!」
脇腹に二発目のグーパンチをお見舞いする。
二発目は強めに殴り『異世界』って言おうとしたなと、睨みながらさっきより低い声で脅す。
「シバく!」
「……はい……」
返事をしながら中野充が首を傾げる。
中野め~、口軽いな。
「俺、何か言ったか?勇者のことも王宮のことも話していないぞ」
私の耳元でそう呟く。
いや、召喚と異世界の話をしたら、必然的に勇者や王宮の話になるだろう!!
と、睨んでやる。
二度と連れて来てやらん!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます