第42話 卵2

 飛んで来る野虫のスピードは速く既に真後ろに来ている。

 私は振り向きざまに腕を大きく横に振り、向かって来る野虫に風魔法で刃を作り投げ付けると、二メートル程手前で首と体が真っ二つに分かれて地面に落ちる。

 危なかった。


 「凄いスピードで飛んで来たな」

 「こいつは討伐しても売れないな」

 茶色の体で細め、足は六本の野虫で、お腹には飲むと口の中がピリピリする水が入っているらしい。


 「毒?」

 「毒だな。でも、死ぬことはない」

 死なないけど口の中はピリピリするの?

 軽めの毒?


 「飲んでみるか?」

 「えっ?」

 毒を飲めと言うのか?


 「いやいや、毒はいらないかな」

 そう答えているのにお腹を切り裂いて袋を取り出し、穴を開けている。

 おい!


 まぁ、何かあれば回復魔法で治すことにしよう。

 袋に穴を開けた拍子に中の液体が飛び出してきた。

 ん?

 袋の中に泡が……。


 これって……。

 「手を出して」

 ジェフが袋を傾けてくるから、仕方なく手を出し、注がれた水を飲む。

 やっぱり。


 「口が痛いだろ?死ぬことはないが飲んだら口の中が痛くなるんだ」

 ジェフが笑いながら言う。

 「これ炭酸水やん!」

 嬉しくってジェフの手を握ってしまう。


 「た……たんさん?」

 ここに来てから甘い飲み物かお茶しかなかったからな。

 炭酸水が飲めるなんて嬉しすぎだ!!

 冷やしてレモン汁を入れてさっぱり飲みたいな。


 「これ、いらないなら貰って帰っていい?」

 「えっ?……あぁ、どうぞ」

 「ありがとう!!」

 三人は茫然と私を見ているが気にせず、紐で穴を塞ぎ収納ボックスに入れる。


 その後も糸を何束かゲットして本日の討伐は終了だ。

 報酬はお断りして王宮に戻る。


 翌朝ベッドで目を覚まし伸びをしようとすると、卵が脇腹にある!!

 あっぶな~!

 寝返りしたら割れるやん。

 確かいつものように、寝る時に壁側のベッドで温まるように布団を掛けて、私は割らさないよう反対の端で寝たのに……、何で?


 転がってきたのか?

 踏んだら最悪!

 中身出てベッドがヌルヌルやん、

 誰が洗濯すると思ってるん。


 ピシッ!


 !!!

 えっ? ヒビ?

 卵にヒビ……。


 う……産まれる?

 ……。

 ……産まれない……。

 何やの!

 ビックリさせて!


 ヒビは一ヶ所だけでそれ以上広がる様子はない。

 朝から疲れた。

 昨日ゲットした炭酸水を冷やして飲もう。


 コップをテーブルに置き、水魔法を応用して氷を作りコップに入れて、収納ボックスの炭酸水を注ぐ。

 おぉ〜、シュワシュワのままだ!

 やっぱり収納ボックスは素晴らしい。


 炭酸水を飲みながら考える。

 よし!

 今日は炭酸水をゲットしに行こう!


 朝食後、早速カカラルの森に飛び感知魔法で炭酸水探しだ。

 森の入り口近くにいるのは糸野虫ばかりで、他の野虫は見当たらない。

 取り敢えず糸野虫を討伐するか。


 そう言えば、白い糸が貴重だと言っていたことを思い出す。

 ちょうど白色の糸野虫が二体いるから討伐して、白糸をゲットしよう。

 ……糸野虫って飛ぶのかな?

 上から攻撃するか、横から攻撃するか……。


 ……どっちでもいっか。

 歩いて糸野虫に近寄り、藪の陰から風魔法の刃を糸野虫の首目掛けて飛ばす。

 見事、首と体が真っ二つになり地面に転がる。


 直ぐもう一体の糸野虫も討伐し、地面に転がっている体に近寄りナイフを首の下あたりに当てると、ナイフの刃が伸びて勝手に糸野虫の体内に入り、そのままお尻の方に向って行き、お尻の少し手前で動きが止まる。

 動きが止まったらナイフの刃が短くなり、中の糸袋がお腹から出てくる。


 やっぱこのナイフは凄い!

 お腹にナイフを当てただけで昨日見た通りに切れて、中の袋まで出てくる。

 白い糸は三束と四束の計七束ゲット!!

 その後は青や赤の糸をゲットする。


 気付けば糸が山積みになっている。

 あれ?

 こんなに糸いらんよな。


 糸野虫は地面の穴に顔を埋めたら動かないし、歩いてもノソノソとかなり遅いから簡単に討伐できて夢中になってしまった。

 ヤバいな。

 本日の目的を忘れているやん。


 一回休憩して仕切り直そう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る