第41話 卵1

 手にした卵をルーベンさんの胸に押し付けて言う。

 「あんな大きなペットは困るわ」

 「問題ない」


 はっ?

 何を根拠に問題ないって言ってるん?

 受け取って貰えず、卵と睨めっこをしているとルーベンさんが脅してくる。


 「気を付けろよ。もう、あんたの手にあるから魔力を吸っているだろう」

 私の魔力を吸っている???

 「盗まれでもしたら、あんたの魔力を持った野獣が他人に使われることになるぞ」

 私の魔力を持った野獣を使う?


 じゃ、野獣が人に危害を加えたりしたら、私のせいになるかも?

 やばいやん。

 魔力の出処を調べられて捕まるかもしれない?


 これは無くさないようにしなきゃ、いや、迷子にさせないようにしなきゃ!

って、出来る訳ないって!!

 野獣やろ!!

 それに、王宮で野獣は飼えないし、町で家を探す?

 いや~!!


 どうしたらいいか答えは出ず。

 仕方なく卵は内ポケットに入れる。

 もう、捌き方を覚えるどころではない。


 討伐した野獣の中に稀に卵が入っていることがあるらしく、魔力があれば卵は孵化するが、魔力が無ければ卵は腐って小さくなり最後は消滅する。

 魔力が少ないと卵は腐って消滅するそうだから、この卵も腐ったら私の魔力は弱いと言うことだな。

 まっ、レベル0の段階で魔力は低いか。


 卵が発見されても孵化させられるのは小数点以下の以下の以下らしい。

 早い話、温めても孵化しない確率ほぼ百%やん。

 取り敢えず一緒にベッドで寝て、昼間はポケットに入れて温めることにするが、実際問題温めて付加するかは解らない。


 卵を手にして二日経つが変化なしだ。

 できれば消滅して欲しい。

 そんなことを悶々と考えながら、今日も森で野獣狩りをする。

 捌き方をマスターするために朝からイーエルを二体、オドガザスを三体討伐したところでルーベンさんの店に持って行って捌き方を見学させて貰う。


 鮮度が大事だから持って行くとスタッフが分かれて捌くので、見学できるのは二体だ。

 まぁ、仕方ない。

 昼からも討伐に行くから夕方また見学させて貰おう。


 「あれ?ゆき?」

 呼ばれて振り向くとジェフがいる。

 「こんにちは、ジェフ」

 「セドルと王都を出たはずじゃなかったか?」


 しまった!

 「え~と……」

 言葉に詰まっているとカカラルの森に行かないかと誘われた。

 カカラルの森?


 カカラルの森ってラマイルの弟が毒にやられたところか。

 行ったことないし連れて行って貰うことにする。

 ジェフと仕立て屋のルヴァノさん、織人のオスニエルさんと共に馬車に乗る。

 目的は糸だそうだ。


 この国は必要な材料は自己調達なのかな?

 野獣討伐は危険だから専門がいてもいいのに、職人が自ら討伐に向かうなんて危ないし考えられない。

 で、糸って野獣の毛のことか?


 「あれがカカラルの森だ」

 森は鬱蒼としていて、オオグレの森のように光は差し込まず、全体的に薄暗い森だ。

 千里眼魔法で森の奥を見る。


 左の奥に赤や黄色の丸い八本足の虫が、土に穴を掘って頭を突っ込んでいる。

 右の奥はデカイ花畑がある。

 あの花の下に立てば、私は小人になれるな。


 花の上で六本足の細い虫が口から棒状の長いものを出して花の中に突っ込んでいる。

 見た感じ花の蜜を吸っているようだ。

 どっちも虫だよな?

 野虫ってことか?

 それとも、これも野獣か?


 全体的に野虫の大きさはトラックくらいある。

 デカいし、キモいし、グロいな。

 気持ち悪い。


 開けた場所で馬車を止める。

 「ちょっと見てくる」

 と、オスニエルが片手を上げて鬱蒼と生い茂る草むらの中に歩いて行く。


 ちょっと見てくる?

 そんな軽いノリで行っていいのか?

 「何を討伐するの?」

 ジェフに聞く。


 「スバグリーを討伐して糸を取るよ」

 糸?

 野虫に糸?

 毛が生えているのか?

 

 どうやって糸を取るのか聞くと、野虫のお腹に糸が入っていると言われた。

 お腹……。

 私の着ている服も野虫のお腹の中の糸で作られたってことだよね。

 何か聞かなきゃ良かった。

 

 近くにいる野虫をジェフに教える。

 「あっちに赤や黄色の丸い虫がいるけど」

 「本当か!」

 話を聞いたジェフが突然走り出してオスニエルさんが行った方向に走るから、私とルヴァノさんも走ることになる。


 オスニエルさんのところに行くと既に二体討伐している。

 早い。

 残りの一体を見つけてジェフが剣を振り上げて投げる。

 投げる?


 ジェフの投げた剣が赤い野虫の首に当たり、頭と体が離れて地面に転がる。

 剣って振り降ろさず、投げるの?

 えっ? そういう使い方?

 赤や黄色の野虫がスバグリーらしい。


 三体とも頭と体が分かれて地面に転がっており、それらのお腹を切り裂いて中から糸が入った袋を取り出すそうだ。

 袋の中は野虫の色と同じ色の糸で、束の数は野虫によって三束や五束とまちまちだ。


 茂みの奥にもスバグリーがいるから皆に教えると、走って討伐しに行ってしまう。

 マジか。

 慌てて皆の後を追いかけようとしたその時、魔法感知に何か引っかかって、こっちに猛スピードで飛んでくる。


 !!!


 早い!

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