第39話 回復魔法4

 ドアが開く音で目が覚めた。

 グランパムから朝方帰って来て、そのままベッドに倒れ込むように寝ていたみたいだ。

 昨日は二人も治療したり、セドルが捕まったりと大変だったな。

 天井をみながら昨日のことを考えながら、ゆっくり起き上がる。


 メイドが二人掃除道具を持って入り口で頭を下げて部屋に入って来る。

 「失礼しました。お休みとは思いませんでした」

 「気にしないで」

 そう答えてベッドから降りる。


 「お茶をご用意致します」

 そう言ってメイド姿のレイラが部屋を出ようとするから呼び止めて、お茶は必要ないことを伝える。

 服は昨日のままだから食堂に行って遅い朝食……、昼食?を食べてこよう。


 セドルの商業について行く予定だったから、宿の仕事は暫く休みになっている。

 なので、暇だ。

 部屋を出ると山形美緒が中央階段から上がって来る。

 「山形さん。こんにちは」


 考え事をしていたのか、下を向きながら上がって来る彼女は私を見て嬉しそうに近づいて来る。

 「お姉さん!どっか行くの?」

 「食堂にね」


 「今からご飯?」

 「そうなの。山形さんは何処に行っていたの?」

 「図書室にね」

 えっ!図書室?


 山形さんが?

 考えられない。

 「何か調べに行っていたの?」

 「他の国の食べ物は何があるか調べに行った」


 食べ物かーい!

 そうだよね。

 あんたはそうだ!

 裏切らないな。


 少しだけ、魔法の勉強かなと思った私が間違っていた。

 まさかの食べ物。

 「図書室でライに会ったわ。橋作るんだって」

 ライって、あの護衛官?


 護衛官が橋を作るの?

 「何で橋を作るの?」


 話を聞くと、山形さんは朝食を食べながら、魔族やエルフ族は何を食べているのか気になり調べようと思って図書室を訪れたら、ライが机に座って本を読んでいたそうだ。


 関わりたくないから無視して奥の本棚に行こうとしたら、ライが顔を上げて山形美緒を見てくるから目が合ってしまい仕方なく挨拶をする。

 「おはよう」


 ライは黙って暫く山形美緒を見ていたが、ゆっくり立ち上がり軽く頭を下げ挨拶する。

 「ごきげんよう」

 「……」


 頭を上げたライと暫く無言で見つめ合う形になる。

 先に目線を外したのはライの方だ。

 ライは挨拶後、下を向いたまま座り本に目を落としたから、山形美緒もその場を離れ奥の本棚に行き、魔国の本を手に取り床に座って読み始める。


 ご当地のお食事事情を何ページか捲った時、頭の上から声がかかる。

 「読めるのか?」

 ライが本を覗き込んで聞いてくる。

 むかつく言い方やな。


 「読めるけど」

 きつい口調で答える。

 「凄いな」

 ん?褒めている?


 「魔国の文字が解るのか」

 魔国の文字?

 気づかなかったけど、魔国の背表紙もエルフ国の背表紙も読めるわ。


 ライが目線を逸らしながら話を続ける。

 「え……と……、机に座って読んだらどうだ?」

 ライがドンドン赤くなるのが解る。

 山形美緒は膝が見えるスカートを履き、あぐらをかいている。


 ん?

 何赤くなってんの?

 まさか私に気がある?

 いや~、私はごめんやな。


 ライはドワーフ国の建築の本を何冊か持って机に戻る。

 山形美緒も他国の料理本を持ってアルの前に座り、エルフ国の料理本に目を落とす。

 ライが呼んでいる本が気になり、そっと覗き込む。

 建築?


 何か建てるのかな?

 「何を建てるの?」

 気になって声を掛けると、それに驚いたように顔を上げ山形美緒を見てくる。

 何?

 声を掛けて不味かった?


 暫く沈黙が続いたため、またお互い見つめ合う形となる。

 先に目を逸らしのはやはりアルだ。

 「西側の橋が老朽化で作り直すことになったから、長持ちする橋の作り方がないかと見ていたところだ」


 「橋?」

 「ドワーフ国の建築技術は高いから参考にならないかと思って……」

 彼が見ている本に載っている橋は木で作る形ばかりだ。


 「木で作るの?」

 「えっ?」

 キョトンとした顔をしてこちらを見る。

 えっ?変なことを聞いたかな?


 「……石で作らないの?」

 美緒勇者はおかしいと王宮で噂になっていることは本人も知っているから、できればこの世界の人とは話たくないが、気になることは聞きたい。

 「石?」

 ライが首を傾げて聞く。

 「石……」


 あれ?

 石の活用はないのかな?

 彼は良く分からないのか黙ってこちらを見てくる。

 王宮は石で出来ているのに何で橋は石で作らないのかな?


 ライは山形美緒を見たまま視線を逸らさない。

 「えーと……」

 何?

 気まずい雰囲気なので今度は山形美緒が目を泳がせることになる。


 「石……、石……」

 視線を下に向けてライが呟く。

 二回言ったよ。

 彼は下を向いたまま考え込む。


 何々?

 私、変な事言ったかな?

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