第38話 回復魔法3

 皆と夕食を食べた後、それぞれの部屋に戻る。

 私は個室を頂いたけど、他の人は相部屋だ。

 気を使ってくれてありがとう!


 ベッドに横になりながら子供のことを考えていたら、魔法感知が反応する。

 もしものことを考えて宿全体に魔法感知を張って、不審人物が近寄って来たら逃げようと思っていた。

 やって来たのは兵士で、確実に私の部屋を目指している。


 不味いな。

 窓を開け屋根に飛んで彼らの動きを見張る。

 ノックもせず私の部屋に入って来て、私がいないことを確認したら隣の部屋を開けてセドルを連れ出し馬車に乗せどこかに連れて行く。


 どこに連れて行かれるの?

 走り出す馬車を空から追い掛けて行くと町の中央にあるお城に着き、セドルを馬車から降ろし城内に連れて行く。

 

 昼間の子供のお城?

 木の枝に立ちお城の中を千里眼魔法で覗く。

 魔法って便利だわ。


 セドルは三階の角部屋に連れて行かれ中に押し込まれる。

 部屋には年配の女性が椅子に座っており、セドルはその前に立たされ、兵士は昼間の事故のことを話している。

 私が人前で回復魔法を使ったせいで、セドルが尋問を受けている。


 連れて行かれた部屋が解ったから、セドルを助けに行こう!

 事故の報告をした兵士は、話が終わると部屋を出て扉の前に立つ。

 見張り?

 お城に入って助けるつもりは始めからない。


 空中に浮いた状態で、窓越しに中を除くとセドルと目が合う。

 セドルがビックリした顔をして口をパクパクし私を指差す。

 「な……何をしているんだ?いや、どうなっているんだ?」

 年配の女性も指を差した窓に顔を向けるから、目が合ってしまった。


 女性は私と目が合った瞬間、大きく目を見開いて何かを言おうと立ち上がった途端、呼吸困難を起こし意識を失い床に倒れる。


 えっ?

 何?

 どうしたの?

 セドルが呼びかけるが反応がない。

 私は窓から部屋に入り風魔法で女性をベッドに運ぶ。


 何が起こったか解らないが私のせいで倒れたことは解る。

 急いで回復魔法を掛けるがいつもと違う。

 ん?

 回復魔法が凄く重い。


 いつもはサラサラと軽く患者の体に白い光が纏わりつくのだが、この患者はドロドロと重く白い光が体内に流れ憎く。

 暫くすると心臓の辺りに腫瘤なのか塊を見つける。

 多分、この塊を取らないといけないと直感的に思い、左手は全身に右手は心臓を翳し回復魔法を掛ける。


 塊に向けて回復魔法を当て続けると、徐々に塊は小さくなり消えたと同時にプスッと軽くなり、いつものように白い光が患者の体内を何周か回った後、全身を包み込み体内に吸収されていく。

 吸収され始めて暫くすると女性は目を開け辺りを見渡す。


 「私?」

 女性はゆっくり私達を見て起き上がる。

 「私のせいで済みませんでした。では失礼します。」

 一礼してセドルの腕を掴み窓に向かう。


 女性はもう大丈夫そうなので、さっさと逃げる!

 彼女は起きて自分の体をマジマジ見ながら心臓周辺を触っている


 荷物を運ぶ要領でセドルに風魔法を纏わせて体を浮かせ、窓から二人で飛んで逃げる。

 「わー!!」

 セドルが大声で叫ぶから思わず口を押えたが遅く、扉に立っていた兵士が部屋に 入って来て剣を振り上げる。

 女性も顔を上げてこちらを見てベッドから降りようとしている。

 最悪だ。


 猛スピードで飛び町の入り口まで来てセドルを下ろす。

 スピードのせいか飛んでいる間セドルは大声で騒ぎ、安定させ難く大変であった。

 「は……初めて空を飛んだ……」

 喚き過ぎでセドルの声は枯れている。


 「私のせいでごめんなさい」

 私が余計なことをしたばかりに迷惑を掛けてしまって、セドルに頭を下げて謝る。

 「なんでゆきが謝るんだ?人を助けただけだろ!」

 そうだけど……。


 女性が治療出来ないこの世界でこんなことを続けていたら、その内周りの人に迷惑を掛かけてしまう。

 「今日のことでまたセドルが連行されたらどうしよう。今からここを離れよう」

 そう言って、セドルの腕を掴む。

 「俺、魔法使えないからもう呼ばれないよ」


 えっ?

 「さっきの人、ゆきの回復魔法で治療をして欲しかったみたいだよ。昼の治療を執事が見ていたんだって」

 「私……?」

 自分を指差してセドルを見ると、二回頷かれる。


 私女性なのに回復魔法を希望してきたの?

 そう言えば子供の治療をした時とは違い、彼女を治療した時の回復魔法は凄く重かったな。

 心臓の問題と思うから、内科的な疾患?


 外傷治療と内科治療の違い?

 あぁ~!どうでもいいか。

 取り敢えず早くここから離れなきゃ。


 「セドル、私帰るわ」

 「えっ?帰るって?」

 「このまま皆といたら迷惑がかかるから先に帰る」

 「どうやって帰るんだよ。道解らないだろ?」


 フッフッフ……。

 よく解らないが、通って来た道には色が付いていて帰る方向が解る。

 千里眼魔法のお蔭か……?

 ……まさか……、携帯電話のお蔭か?

 

 いや~、ないない。ない!

 私の中でどうも携帯電話が勇者じゃないかと言う疑念が拭えないでいる。

 私のレベルは0なのに、携帯電話に入っている魔法が全て使えるのよね。

 不思議。


 セドルに問題なく帰れることを伝え、手を振りながら空に舞い上がり王都に向かって飛ぶ。

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