第37話 回復魔法2
グランパムには昼過ぎに着く予定だ。
その前に次の町で昼食にする話がでた。
半日走れば次の町に着くのか?
それとも半日で着くように馬車を走らせているのかな?
皆にトシンの肉があるから焼いて食べようと提案すると、全員大喜びで同意した。
町の手前で馬車を止め、土魔法で竈を二つ作り火魔法で竈の下に火を付けて、昨日鍋と一緒に買った網を上に乗せてトシンを焼く。
味付けは塩コショウだ!
もう一つの竈には鍋に水魔法で水を入れて沸かす。
茶葉を入れてお茶の出来上がり!
トシンの肉は思った通り焼き鳥の味だ!
美味しい!!
皆も大絶賛だ!
喜んで貰えて良かった!
魔法を覚えて正解だったな。
「トシンの肉ってこんなに美味しいんだ!」
「トシンは金にならないから討伐しないな」
「まぁ、俺らの口に野獣の肉は入らないけどな」
はっははは……、と全員が笑い出す。
皆の箸が止まらない。
「町の食事は不味いからいつもは食べずにグランパムまで行っていたんだ」
まさか、私がいるからお昼の心配をしてくれたの?
ありがとう。
皆いい人だな。知っていたけど。
昨日買ったチーズやワインを土魔法で作った器に入れて火にかけ、お肉を付けてチーズフォンジュ風にして食べる。
これも大絶賛だった。
「ゆき、これからも一緒に来て欲しいな」
それはムリなので、笑って誤魔化しておく。
食事を終えたら、作った竈は風魔法で滅多切りにして業火の炎で焼き尽くす。
煤で汚れた地面は回復魔法で元通り!
さぁ!先に進もう!
着いたグランパムの町はそれなりに大きかった。
町の中心にお城みたいな建物がありその周りを取り囲むように町が作られている。
セドル達は糸と反物の商品を依頼者の元に運び、後はそれぞれ自由行動となった。
糸はカカラルの森で採取するので、討伐できた時に持ってくると言っていた。
カカラルの森と言えばラマイルの弟が毒で死にかけたことを思い出す。
セドルと私は町を散策しに行き、他のメンバーは買い物に行った。
この町には三日程滞在し、次の商品を受け取ってまた他の町へ届けて、一か月近く町を転々とした後、王都に戻ってくる。
運送料は商品によって違うらしい。
美味しいケーキ屋があるから案内するとセドルに言われたが、正直ケーキはもういらないな。
できれば塩系の食べ物がいい……、何てこと言えないけどね。
「キャー」
突然後ろから大勢の悲鳴が聞こえてくる。
何事かとセドルと走って行くと道路の中央近くで子供が倒れている。
「子供が馬車に引かれたぞ」
「誰か回復士を呼んでくれ。坊っちゃんを助けてくれ」
子供は、頭から血を流し、足は変な方向を向いて倒れている。
倒れている子供の先に馬車が止まっていて、横に立っている男性が震えているのを見ると彼の運転していた馬車に轢かれたのだろう。
子供は頭や足の外傷部からの出血が多く、呼吸は努力様だ。
内蔵損傷や頸髄損傷が考えられるだろうから早急に治療しないと最悪死に至るだろう。
「馬車に運ぼう」
太った男性が子供を動かそうとした瞬間声が出てしまった。
「動かさないで!」
大声と同時に、その場にいた全員が一斉に私を見るが、気にしない。
「動かすのは危険です。命に関わりますよ」
男性は一瞬こちらを見るが、直ぐ周りに目を向け大声で叫ぶ。
「直ぐ回復士を呼んでくれ」
回復士が来てからでは間に合わない。
一応、こっそり魔法で止血はしているが、時間の問題だな。
「私、回復魔法が使えます」
子供の側に駆け寄り男性に伝え、座ろうとすると。
「女だろ。そんな格好して触るな」
男性に押され尻餅をつく。
「女は回復士資格がないだろ」
そう、この国は女性の回復士は認めていない。
でも!
「子供が死ぬのを見るか、女性に子供を助けて貰うか、どっちがいい?」
きつい口調で男性に言う。
男性の顔色が変わった。
黙って子供を見る。
私は、両手を子供に翳し、回復魔法を使う。
男性は黙ったまま子供を見ている。
子供の体全体が白い光で包まれ、外傷した箇所から血管に沿って体内に白い光が入って行き、内蔵損傷や骨折部位に白い光が集まり渦巻いて吸収されていく。
白い光が何周か体内を回り外傷部を治療し、全ての損傷部位が治癒できたら、体の上から送っていた回復魔法が子供を包み込み全身に吸収されていく。
吸収されて暫くすると子供は目を開け男性を見て声を出す。
「あれ?どうしたのかな?」
男性は子供を見て、抱きしめる。
「坊っちゃん、良かったです。良かったです」
「バートン?」
子供は何が起きたか解らない様子で、男性の行動に戸惑っている。
その場の人々が子供に気を取られている隙に、セドルを捕まえてその場を離れる。
走ったぁ~。
ここに来てこんなに走ったのは初めてだ。
宿の近くまで来てから誰も追いかけて来ていないか振り向いて確認する。
「ごめんなさい。迷惑掛けちゃって」
ケーキを食べに行く予定が、宿に戻る羽目になってしまいセドルに謝る。
「迷惑なんて、子供が助かって良かった」
セドルって本当にいい人だな。
私は気付かなかったが子供を治療している時、一人の男性が対向車線に止まった馬車から私達を見ていた。
回復士は私達が立ち去った後に到着したようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます