第36話 回復魔法1

 一晩考えて王都を離れる決意をする。

 回復魔法の話を聞いて宿を訪ねて来る人がいるかもしれないから、私はいない方がいいと判断した。

 女将さんとサラには迷惑をかけることを謝って、ユールイジ団の馬車に乗る。

 二人とも気持ちよく送り出してくれた。


 町を覆っている壁を通り過ぎ、いつも狩に来るオオグレの森を右手に見ながら馬車を走らせる。

 この先に町があることは魔法を使って映像で見たことがあるから知っている。

 そういえばどこまで行くのかな?


 「どれくらいで町に着くの?何て町?」

 二日で目的地のグランパムに着くとセドルが教えてくれる。

 半日馬車を走らせて最初に着いた町で昼食にする。


 前に私が映像で見た町だ。

 町は小さく食堂は二店舗で、入った店の食事はマシな方だと教えてくれる。

 んー。

 王宮と賄しか食べたことが無かったけど、それが美味しいと気付かされる食事だ。


 全体的に薄味で醤油や塩をかけて食べたいと思ってしまう。

 この先もこの薄い食事が続くのかな?

 自分で調味料を持っていた方が良さそうだから、ちょっと調味料店を除いてみるか。


 王様から貰ったお金も宿の給料も野獣討伐の換金も、使い道が無いからそのまま残っている。

 服も食事も支給して貰えるから、使ったお金って魔道具とポテチくらいだ。


 よし!

 調味料や鍋を買おう。

 トシンの肉があるし自分で料理してみるか!


 料理長にトシンの肉を持って行った際、捌くところを何度も見て覚え、トシン討伐後思い出しながらナイフを当てると驚くことに料理長の捌く映像が頭に浮かび、ナイフが勝手に映像通りに動いて同じように捌けてしまうようになった。

 有能なナイフで有難い。


 なので、私の収納ボックスにはトシンの肉、毛皮、前足、眼石に心石が山のように入っている。

 さっきの町を出て数時間馬車を走らせ、本日泊まる町にやってきたので早速調味料と鍋を調達し収納ボックスに入れる。

 セドルに何に使うのか聞かれて予定はないと答えとく。


 何故ならここの食事は美味しいとラマイルが言っていたからだ。

 実際、賄ほどではないが美味しい。

 料理と一緒にワインも運ばれてきて、私はこの世界に来て初めてのワインを頂く。

 ワイン美味しい!!


 宿泊するこの町はワインの製造が盛んな場所で色々な味のワインが楽しめるらしい。

 そのせいで、宿泊する者も多く町は賑わっている。

 町自体は大きくないが人は多く、その殆どが商人なので盗難も多発しているそうだ。

 治安は悪いから荷物の見張り役がいるということだが、全員ワインを飲んでいるけど大丈夫なの?


 馬車で寝ていれば盗賊は来ないと言っていたが、不安なので一応馬車に防御壁を貼っておくことにする。

 私も皆と一緒に馬車で寝ると言ったが猛反対され宿に押し込まれた。

 私だけベッドで寝て済みませんと心から謝る。


 盗賊は来ることなく朝を迎えた。

 旅立つ前に昨日食べたチーズが美味しかったから、いくつか買って収納ボックスに入れる。


 狙われる商品って何だろう?

 聞いてなかったが、うちの商品は何を積んでいるのかな?

 道中グランパムの特徴や特産品の話ばかり聞いて荷物のことは考えなかったな。


 昼前、内ポケットの携帯電話が振動した。

 中野充からラインだ。

 ーどこにいる?ー

 ー外泊か?ー


 ムッ!

 何これ。

 何なん?

 外泊するのにあんたの許可はいらんやろ!!


 グランパムに向かっていることを返信する。

 ーマジか?ー

 ーゆきさんが部屋で寝ていないとメイドが騒いでいるぞー


 !!!


 まずい。

 サルナスの耳に入ったら大変だ。

 ー悪いけど適当にベッドをグチャグチャにしといてー

 と、帰れないことをラインで返信する。


 あれ?

 今頃ベッドをグチャグチャにしても仕方ないよな。

 再度、中野充に、

 ー今晩、ベッドを使ったようにしといてー

 とラインをし直す。


 ベッドか……。

 盲点だった。使ったか使っていないか解るよな。

 携帯電話を握りしめ苦悶の表情をしていると、後から声がする


 「それ何だ?」

 「何か押したら見たことない物が出て来たな?」

 しまった!

 普通に携帯電話を使ってしまった。


 「あ〜、これは……通信機?」

 わー!何で疑問形?

 「通信機?……って何?」

 そうか通信機が解らないのか。


 「あっ……魔道具の一つ?」

 わー!また疑問形だ。

 「魔道具か」

 全員それで納得したようだ。

 魔道具って言葉、便利だな。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る