第34話 便利器具4
昨日はヤバかった。
二度と魔国の人とは会わないようにしよう。
幸い、うちの宿屋は殆どが商人であり、王族が泊まるような宿ではない。
女将さんが聞いたら怒るセリフだけど、そういう宿屋だ。
サラと洗濯場に来て汚れたシーツを洗濯槽に入れ、洗濯を始める。
客室清掃は、二人一組で行い、割り当てられた部屋数の清掃とベッドメーキングを行う。
宿泊客の人数によるが、通常三組六人で清掃を行い、それぞれが洗濯場で洗濯して干し終わったら仕事が終了だ。
私がいる時は魔法で三組分洗濯して干していたから、毎日仕事に来て欲しいと冗談っぽく皆に言われている。
今は洗濯機を作ったから私がいなくても洗濯が楽になっているはず。
小さい時私は洗濯機の中の水や衣服の動きが面白くて覗いていたが、皆も同じなのか洗濯槽を覗き込んで見ている。
洗剤で洗って、脱水、濯ぎをして脱水と一通り終わったら風魔法でシーツを広げて干していく。
洗濯ものを次々に干していると洗濯槽を覗いていたサラ達が傍に来た。
「ゆき、これは有難いわ!洗濯が楽になっちゃった!!」
「これがあれば手荒れに悩む必要もなくなるわ!」
手荒れ?
「洗えたら私達が干しとくから厨房の様子見てきていいよ」
サラには私が厨房に作った洗濯機の状況を心配していることがお見通しのようだ。
「行ってきていいよ!」
「ここは任せて!」
シーツを広げて干すのは大変なのに、皆がそう言ってくれるのでお言葉に甘えて厨房の洗濯機を見に行くことにした。
厨房の洗濯機も私達の方と同様、人が群れて洗濯槽を覗いている。
その人だかりに紛れて私も洗濯槽を覗いて見る。
完璧だ!上手く動いている!!
「ゆき。凄い物を作ってくれたな」
料理長が声を掛けてきた。
「喜んで貰えて良かった」
私は笑顔で答えながらチラッと料理長を見て、直ぐ洗濯機に目を移した。
『うんうん』と頷きながら脱水・濯ぎと順番に洗濯機の動きを確認していると……。
ドン!!
大きな音と共に地響きがして地面が揺らぐ。
何?
地震?
攻撃?まさか魔族?
周りを見渡すと倉庫の方から土煙が上がっている。
その場にいた全員が走って倉庫に向かう。
倉庫は二階の床が半分崩れ落ち、壁と屋根の一部が崩壊している。
「あんた!ケイブ!」
女将さんが大声で走って来た。
「あの瓦礫の中に旦那さんがいるの?」
私は女将さんに聞くと同時に風魔法で瓦礫を浮かせると、その下に三人の人が倒れていた。
足が潰れている人、頭から血を流している人、腕がない人。
移動で出血が多くならないよう風魔法を応用して傷口を止血しながら、急いで三人を水平移動させこっちに運ぶ。
意識はないが息はある。でも……。
「回復士を早く」
集まった人がそう叫ぶが、出血が多く呼吸も弱い。
回復士を待つ時間は無いだろう。
迷わず三人に回復魔法をかけると、彼らの体が白い光に包まれ傷が治っていく。
内臓系の治療は体内に魔法を流し込んで大変だが、怪我はその個所を修復と言う名の治療をするから楽だ。
外傷が治療出来たら最後に全身に回復魔法を流し、内臓損傷や頭部損傷を確認して治療終了だ。
壁や岩を修復し続けた努力のお蔭か、潰れた足も切断された腕も回復できる。
全身に白い光が吸収されると三人が目を開け辺りを見回す。
「あれ?どうしたんだ?」
泣きながら女将さんがケイブに抱きつく。
「良かった。良かったよ」
ケイブは訳が解らないと言った様子だ。
他の二人もキョトンとしている。
スタッフが瓦礫の下敷きになったことを話すと、三人は酷く驚き、何度も私に頭を下げてお礼を言ってくる。
女将さんまで手を握ってお礼を言う。
「ゆきありがとう。息子の次は主人まで助けてくれて、なんとお礼を言えばいいのか」
「お礼なんていいです。女将さんにはお世話になっているし、私が出来ることをしただけです。助かって良かった」
と、ホッと胸を撫で下ろして周りを見る。
やばい。
ここの従業員か皆集まっていた。
そう、全員に魔法を見られたのだ。
「……えーと……」
なんかもういいか。
魔法を内緒にと言うのも面倒臭くなってきたから広まったら広まった時だ!
気にしないことにしよう。
「今夜の食材が無くなったな。確か満室じゃなかったか?」
ケイブが崩れた倉庫を見ながら呟く。
「仕方ない。今夜は外で食事して貰うよ」
女将さんは笑顔で答えるが目は泣きそうだ。
うちの宿は希望客に夕食を提供していて、その夕食用の食材が倉庫に置かれている。
希望客と言うが、うちの夕食が美味しいことは有名で、殆どが夕食目当てで宿泊するから毎日宿泊客全員分の食事を用意している。
倉庫の修復ってどれくらいの日数が必要なのだろう?
……倉庫の修復?
あれ? 私出来るかも?
そう思った瞬間、回復魔法を飛ばしていた。
壁と同じだし、得意分野じゃない?
思った通り簡単に倉庫を修復することができた。
これを見ていた全員が目を見開いて、口を開けている。
シーンと静まった後歓声が上がる。
「凄い!!」
「ゆきさん凄いな!」
「ゆきさんありがとう」
スタッフから次々に歓声とお礼を言われる。
「どっちかって言うと建物を修復する方が得意なの」
照れながら答える。
倉庫の中の食材も修復されて新鮮になっていた。
料理長も大喜びだ。
「こんなに凄い魔法を使うのに女性であることが勿体ない」
皆がこの言葉に『うんうん』と頷いている。
その後はそれぞれ持ち場に戻って仕事をした。
私が作った洗濯機は厨房でも好評で、服もタオルも真っ白になると評判だ。
勿論サラ達も、シーツが真っ白だと大喜びだ。
その上、濯ぎから出る水には一工夫していて、柔軟剤を使ったような仕上がりになるようにしている。
なので、シーツも服も柔らかい!!
私、天才かも!!
事件はその夜に起こった。
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