第32話 便利器具2

 収納ボックスにトシンの石が山のようにある。

 確か、トシンは一つ初級魔法が付与出来ると言っていた気がする。


 翌日仕事が終わって女将さんの所へ行くと、長い銀髪の男性と話している。

 綺麗な人だな。

 ジーと見ていると女将さんに声をかけられた。

 「厨房に行ってリオを呼んで来ておくれ」


 リオ?

 誰だろう?

 厨房の入り口でリオを呼んで貰い、女将さんの所に行くよう伝えた。

 ジャガイモや人参の下ごしらえをしている子だ


 「女将さんお呼びですか?」

 「あぁ、あんたにお客だよ」

 銀髪の男性を見てリオの顔色が変わった。

 怯えたような顔だ。


 『探したよ。無事で良かった』

 そう言って銀髪の男性はリオを抱きしめた。

 『申し訳ありません』

 リオは立ったままの姿勢で抱きしめられるが、抱き返すことはしない。


 話を聞いていると、リオは人と魔族の間に生まれた子供で、母親のプランヌエールとこの人国で生活していたが、その母親が亡くなったと知り兄のサガージャが以前住んでいた家に迎えに行ったそうだ。しかし家は人手に渡っていて消息がわからず探し回っていたそうだ。

 迎えに来たこの兄は両親共に魔族であり、今まで魔国で暮らしていたらしい。


 「魔族と人って一緒に暮らせるの?」

 女将さんにコソッと聞いて見る

 「あんた、二人の会話が解るのかい?」

 えっ?


 「魔国語が解るなんて凄いね」

 魔国語?

 そう言えば普段聞く言葉と違うけど解るわ。

 召喚の特典なのか、携帯電話の翻訳機能なのか、どっちにしても有難い能力だ。


 『仕事が終わったら家に迎えに行くよ。必要な物だけまとめとくように。残りは明日取りに行こう』

 『ありがとうございます。荷物はそれ程ありませんので』

 兄は女将さんに人国語で挨拶して宿を出て行った。


 リオが厨房に戻ってから女将さんに用事を聞かれた。

 忘れていた!

 「女将さん、洗濯場に作りたい物があります」

 「作りたい物?」

 「はい!」


 嬉しそうに返事する私を暫く見てから頷いた。

 「いいよ。あんたが作る物なら問題ないだろう」

 「役に立つ物です。ありがとうございます!」

 満面の笑みで答え、頭を軽く下げて洗濯場に向かう。

 気になったのか女将さんが後から洗濯場に来た。


 トシンの石が山のようにあるから何かに使えないか考えていたところに、昨日の出来事だ。

 洗濯機は風と水魔法で作れるのではないかと考え、洗濯槽の掃除はクリーンになる魔法を付与してみたらどうかと思った。


 洗濯場の端に、土魔法で長方形の桶を作り、中に仕切りを三つ付ける。

 土魔法は使ったことが無かったけど、イメージ通りの形になった。

 よしよし。


 桶の奥の面は手前より高く作った。

 そこに、トシンの石をはめ込む。


 一つ目は二個。

 二つ目は一個。

 三つ目は二個。

 四つ目は一個。

 そして、手前の面に一個。


 二個付けた石には水魔法と風魔法。

 一個付けた石には風魔法。

 それぞれ、魔法が発動している時間と、必要な水の量、風の力と風の方向を付与する。

 手前の石には洗濯槽がクリーンになるようイメージして魔法を付与する。

 上手くいくかどうかは使ってみないと解らないが。


 石の側に呪文を風魔法で刻む。

 一つ目は洗濯機の『せ』

 二つ目は脱水の『だ』

 三つ目は濯ぎの『す』

 四つ目は完了の『か』

 で、前の石には、洗濯槽を綺麗にして貰う『く』


 タオルを一枚、洗濯槽に石鹸と一緒に入れる。

 「せ」

 水が一気に張られ、右に左にと渦を作り始めた。

 おぉ〜!成功だ。 


 数分後に渦が止まる。

 次は脱水へ!

 これも成功!

 濯ぎ、二度目の脱水と上手くいった。


 最後は洗濯槽の清掃!

 「く」

 うっわー!

 一気に泡も水滴も無くなりピカピカだ。

 見事成功だ!


 二層式洗濯機の出来上がり。

 洗ったタオルは、干しておく。

 これで、洗濯が楽になるな。

 ポカーンと見ている女将さんに、両手で桶を指して名前を伝える。

 「洗濯機です」


 「せんた…?何か凄いね。タオルが綺麗になっている」

 洗濯中は洗濯槽に手が入れられないように、動いている間は上に膜を張る仕組みにした。

 安全第一だからね。


 「明日使って不具合がないか見ます」

 「あ…ああ」

 「お疲れ様でした」

 洗濯場を後にしようと思ったら、女将さんに呼び止められた。


 「これ、もう一つ作れないか?」

 石はまだあるから問題ない。

 「作れますよ」

 「それじゃ、こっちに作っておくれ」


 そう言われ、厨房の裏に連れて来られた。

 厨房の裏は、料理長達の制服や大小のタオルがロープに掛かっている。

 そうか、こっちも洗濯する人がいたのか。

 何処に作るか聞いて、言われた場所に同じ 物を作る。

 使い方を洗濯するスタッフに一応説明する。


 明日、私が実践するのを見て貰ってもいいけどね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る