第31話 便利器具1

 中野充と別れて部屋に戻り、ベッドに横になる。

 いつもは宿で働いているか、森にいる時間だ。

 考えたらここに来て昼間部屋でゴロゴロするのは初めてかも。


 ベッドで横になっていると扉をノックして誰か入って来た。

 「勇者様、毎日何処に行かれているのかしら?」

 「いいじゃない。いない方が掃除しやすいし」


 メイドが二人入って来た。

 どうしよう。

 起きるタイミングを逃したな。

 ベッドに横になった状態で、窓を開けているメイドを見ていると目が合ってしまった。


 「キャー!」

 「キャー!」

 メイドの一人が悲鳴を上げ、その声に驚いたもう一人も悲鳴を上げた。


 そして私は、その悲鳴に驚いて飛び起きる。

 最悪なことに、この悲鳴は隣まで響いたようで、隣のメイドも走って部屋に来た。

 「何?」

 「どうしたの?」

 走ってきたメイドが入り口から二人に声をかける。


 中野充と山形美緒も入り口から部屋を覗いているではないか。

 「申し訳ありません。いるとは思わなくて」

 だよね。

 メイド二人が私の傍にきて頭を下げる。


 いない方がいいって言っていたな。

 どこから来たか解らない人の世話とか嫌だよね。

 部屋の掃除とか来なくていいけどなぁ、と、思っても今言うと角が立つから声には出さない。


 「えーと、私こそ寝ていてごめん」

 自分の部屋で寝ていたのに謝るって何だかな。

 「本当に申し訳ありません。私、失礼な事を言ってしまって……」

 メイドの一人が涙ぐみ始めた。


 おいおい。

 勘弁してよ。

 「いいから気にしないで」

 と、両手を振って笑顔で言うと、メイドは頭を下げて返事をして作業に戻る。


 「あなた達も掃除に戻って!」

 ベッドから降りて、入り口にいるメイドを指さし言う。

 メイドと一緒に中野さん達も部屋に戻って行く。

 掃除の邪魔にならないようにバルコニーに出て庭を眺めボーっとする。


 バルコニーは暑いけどジメジメした感じはない。

 暫くバルコニーの手すりに持たれて庭を眺めていたが、鳥が飛んで来るわけでもなく人が歩いている訳でもなく、風景に変化が無さ過ぎてつまらないので部屋に戻って椅子に座ることにした。

 メイドを見ている方が楽しいかも。


 メイドはベッドメーキングをしている最中だ。

 このシーツも誰かが手洗いしているのかな?

 この世界の洗濯って大変だから、毎日交換しなくていいけどな。


 まさか、私のように風魔法で洗濯していたりするかな?

 部屋の掃除とベッドメーキングを終わらせ、汚れたシーツと掃除道具を持ってメイドが部屋を出て行ったが、どうしてもシーツの洗濯が気になる。


 私は魔法感知を使い、メイドがどうやってシーツを洗うのか見ることにする。


 シーツは北側一階の奥の部屋に持って行っている。

 その部屋の中には大きな石作りの洗濯槽のような物がいくつもあり、洗濯槽には水が張られ、その水にシーツを浸けてメイドはその場を離れる。


 漬け置き洗い?

 私の皮脂は汚いのかな?

 暫くすると他のメイドがシーツを持って来て、違う洗濯槽にシーツを浸ける。

 やはりシーツは水に浸けたままその場を離れた。


 一晩付けて明日洗濯するのかな?

 と、思っていたらまた違うメイド二人が入って来て、さっきと違う洗濯槽のシーツを取り出し、横の石の台に置いて二人で畳み始めた。


 見ると全ての洗濯槽の横に石の台が付いている。

 石の台に畳んで置いたままのシーツが何個かある。

 さっきシーツを畳んでいたメイドも、畳んだシーツをそのまま置いて部屋を出て行った。

 あのシーツ濡れているよね?


 気になって落ち着かないから北側の部屋に向かう。

 部屋に入り石の台の畳んだシーツを触ってみると濡れている。

 そりゃそうだよね。

 絞ってもいなかったし。


 「ゆき勇者様?」

 声がした方を見るとレイラが他のメイドと一緒にこっちに来て頭を下げる。

 「レイラ!洗濯をしにきたの?」

 「いえ、シーツを取りに来ました」


 シーツを取りに来た?

 この濡れたシーツを干すのかな?

 「シーツを干しに行くの?」

 「えっ?」


 キョトンとされた。

 あれ?

 「干さないの?」


 シーツが浸かっていた水は浄化水で除菌効果があり、生地は新品に戻るらしい。

 濡れたまま畳んで置いていた台は生地を乾燥させると共に柔軟にしてくれるそうだ。

 洗濯槽はシーツを取り出せば自動で新しい浄化水を入れ直してくれる。

 洗濯槽と石の台にはサルナスが作った魔方陣が刻まれている。


 サルナスって凄い人なのね。

 乾いたシーツは隣の部屋のリネン庫に片付けるそうだ。

 因みに、この浄化水は厨房でも使用されていて、汚れた食器を付けて置くと食器が除菌され新品になるらしい。


 これ使えるかもしれない。

 ちょっといい事を思いついたかも。

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