第30話 職場5
持って来たジャガイモが全部ポテトチップスになった。
私はボールに出来上がったポテトチップスを入れ、女将さんのところに持って行く。
「女将さん。今日は厨房を借りて助かりました。ありがとうございます。これ、私が作ったポテトチップスです。どうぞ」
女将さんが籠の中の物を見ていると、横から手を出し受付の女性従業員がポテト チップスをパクリ!
「うっそー! 美味しい!! 何これ?」
「ポテトチップスです」
女将さんも一口。
「何だいこれ。美味しいね。これは夜の食堂で出したら評判になるよ」
料理長達と同じことを言っている。
「美味しいって言って貰えて良かった。それじゃ、私は帰ります。ありがとうございました」
厨房に戻り、昨日ジャガイモと一緒に購入したボール二個を収納ボックスから取り出し、一個にポテトチップスを入れ、もう一個を蓋にして持つ。
「料理長、今日はありがとうございました。皆さんもありがとうございました」
頭を下げてお礼をいい、厨房を後にする。
二人に早く食べて貰いたいから急いで王宮に戻り、池の傍の木の上から魔法感知で探す。
山形美緒は部屋で寝ている。
中野充は食堂で誰かと楽しそうに話している。
食堂に行き、中野充に声をかける。
「中野さん」
「ゆきさん、何?」
テーブルにボールを置いて蓋を開ける。
「!!これは!!」
中野充が立ち上がって中を覗きこむ。
「ポテトチップスを作ったの」
「ポテチを作ったあ?」
声がでかい。
周りの人が中野充の声で一斉にこっちを見てきた。
彼は、済みませんと周りに頭を下げて座る。
蓋にしていたボールにポテトチップスを半分入れて、テーブルを囲んでいる人達の真ん中に置く。
「どうぞ」
「やったー!」
両手を上げでかい声で喜び、また注目を浴びる。
こんなに喜んで貰えると嬉しい。
残りのポテトチップスを持って山形美緒の部屋に行く。
ノックをしても返事がないから、勝手にドアを開けて入る。
「山形さん、起きて!!」
そう言ってカーテンを開ける。
「何?」
彼女は眠そうに布団に潜り込む。
「ポテトチップスを作ってきたよ。一緒に食べよ」
「ポテトチップス?」
大声で聞き返し、飛び起きる。
反応が中野さんと同じだ。
解る気がする。
私が二人の立場なら、同じ反応をすると思う。
「作ったって言ったよね?ホンマに作ったん?」
「そう!今作って来たとこ」
私が答えているのにポテトチップスを食べ始めている。
聞けよ!
「美味しい。ポテチ久しぶり~」
すっごく美味しそうに食べるな。
私は彼女の部屋にあるカップでお茶を作りテーブルに置く。
一緒にポテトチップスを食べながら彼女に聞く。
「毎日、こんな時間まで寝ているの?」
「そうかな?やることないしね」
夜遊びすることもないだろうに、早寝遅起きか?
その時、ノックされる。
「ゆきさんいる?」
「いるよ」
そう答えると、中野充が山形美緒の部屋に入ってきた。
「ポテチ上手かった。皆大絶賛だったよ」
そう言ってボールを返してくれる。
「良かった好評で」
「ポテチ作るって凄いな。食べたかったけど作る発想はなかったな」
「私も作るなんて考えないな」
山形美緒、あんたはそうだろうな。
中野充がボールの中を見ている。
「食べていいよ」
「やったー!」
そう言うと直ぐポテトチップスを頬張った。
大好評だ。
良かった。良かった。
ポテトチップスもなくなり全員でお茶を飲み一息付く。
「ここに来て随分経つよね」
「そうやな」
中野充が返答する。
「魔法が使える世界なんて最高やな!」
中野充、あんた魔法の練習してないやろ。
何、『魔法上手なった』みたいに言うてんの?
ついでに言うと山形美緒、あんたも魔法の練習していないよな。
二人とも魔法は語ったらあかんわ。
まったりお茶を飲んでいるとメイドがノックしてお膳を持って入って来た。
メイドは私達に一礼し、山形美緒の前に昼食を並べる。
「勇者様のお食事も直ぐお持ち致します」
「私はいらないわ」
ポテトチップスでお腹がいっぱいだ。
「俺もいいや。後で食べるよ」
あんたはさっきまで食堂で食べていたからな。
メイドの邪魔になってはいけないと、私と中野充はそれぞれの部屋に戻ることにする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます