第28話 職場3
彼女の声がする方へ移動し窓から中を覗いてみる。
「お婆ちゃんの治療はもう出来ないって言われた。薬しかくれなかったよ。私の回復魔法のレベルがもっと高かったら治せたのに。ごめんなさい」
お婆ちゃんが病気?
「レイラはよくやってくれていたよ」
女性はレイラの肩を抱き寄せる。
抱き寄せた女性は年齢的に多分レイラの母親だろう。
「そうだよ。レイラのおかげで回復士さんが来ない日も痛みが和らいでいたよ」
年老いた女性はベッドに横になった状態でレイラに話しかけている。
きっと彼女がお婆ちゃんね。
「私の魔法は半日しか効かないから……。ごめんなさい……」
レイラは溢れる涙を拭いながら謝っている。
痛みってどこが悪いのかな?
回復魔法が受けられないってことは治せないってことなのかな?
ここの回復士は治せない病気や怪我は治療しないようだし……。
薬を貰ったって言っていたけど何の薬?
鎮痛剤?
末期の人に使う麻薬みたいなものかな?
母親らしき人が泣きじゃくるレイラを連れて部屋を出て行ったから、お婆さんが一人になる。
チャンス!
私が窓をノックすると、お婆さんがこっちを見る。
頭を下げて、風魔法で鍵を開け、窓を開けて挨拶する
「初めまして。私ゆきと言います。レイラさんにはお世話になっています」
「レイラの友達かい?」
友達ではないし、知り合いでもないな。
「お婆さん、どこが悪いの?」
友達には触れず病気のことを聞いた。
「足が痛くてね。痺れて重くて歩くこともままならない状態でね」
足が痛くて、歩きにくい?
「部屋に入っていいですか?」
「構わないよ」
窓から部屋に入る。
お婆さんは、玄関に回らず窓から入る私の行動を見て驚いているが、気にせずベッドに近寄り話をする。
「良ければ私が見てもいいですか?」
怪訝な顔をして私を見るが、首は縦に振る。
「あ……、あぁ、構わないよ」
足が痺れると言うことは腰かな?頭かな?
私は回復魔法をかける。
お婆さんの体を白い光が覆う。
光を通して体を見ると腰の辺りに塊がある。
腫瘍?
頭に黒い塊はない。
腰の塊を取り除くようにイメージしながら、右手は体の上から回復魔法をかけ、左手は腹部に当てお腹から腰に向けて回復魔法をかける。
私とお婆さんの声を聞いたのかレイラ達が部屋に入って来た。
「お母さん?」
父親らしき人がお婆さんを呼ぶ横で、レイラが口をパクパク動かしている。
私だとバレたな。
回復魔法を中止する訳にはいかないので、家族の方を見て頭だけ下げる。
お腹から当てている回復魔法が腰の塊を包みこみ徐々に形を小さくしていき、最終的には消えてなくなる。
消えた後、両手で体の上から回復魔法をかけると全身を光が包み込み体に吸収されていく。
「終わりました。起きてみて下さい」
お婆さんはゆっくり起き上がり、足やお腹を見たり、腰に手を当て左右に動かしたりしている。
「これは……。これは凄い」
お婆さんは歓喜の声を上げた。
喜んで貰えて良かった。
お婆さんが突然ベッドから出て立ち上がり、 両手を掴んでお礼を言ってくる。
「えー!!」
お婆さんの行動を見て他の家族が大声で驚く。
「母さん、立てるのか?」
父親らしき人が驚いてお婆さんの側に行き、手をワナワナと震えさせ全身を見ている。
「あぁ、立てるよ。あんた凄いね。ありがとう。ありがとう!」
お婆さんは何度もお礼を言ってくる。
「いえ……」
マズイ!
多分余計な事をしたかも。
メイドの家で回復魔法を使うなんて、何てバカなの私。
お婆さんの手をやんわり外し、口をパクパクしているレイラの元へ行く。
「レイラさん、遅くにお邪魔してごめんなさい」
そう言いながら、レイラの肩を掴み部屋から出て行く。
「ゆ……ゆき勇……」
勇者と言いかけてレイラの口を押え、『シッ』と、耳元で言う。
父親達はドア越しにこちらを見ている。
何か……。レイラに会いに来た何かを考えなければ…。
その時、ブレスレットが目に入る。
おぉ~!
収納ボックスからトシンを出し、レイラに手渡す。
「いっぱい討伐したから、レイラさんにもお裾分けしようと思って来たら、泣きながら話す声が聞こえて……。盗み聞きするつもりはなかったのよ。ごめんなさい」
父親達の方を向き挨拶する。
「遅くに済みませんでした。挨拶が遅れましたが私はゆきと言います。レイラさんにはお世話になっていて、良ければトシンをどうぞ。それじゃ、失礼します」
トシンをレイラに手渡し玄関に向かおうとして、自分が窓から入ってきたことを思い出す。
玄関どこ?
ってか、窓から入るって非常識でヤバイ奴って思われているよな。
苦笑いしながら家族の方を向き、レイラに玄関を聞く。
「えーと、レイラさん、玄関はどちらですか?」
玄関を聞いている段階で人としてアウトだろ。
「あっ、こちらです。案内致します」
玄関の方向に手を向けて案内してくれる。
「良かったら、夕食を食べていっておくれ」
えっ?
母親が夕食に誘ってくれるが、流石にそれは駄目だ。
レイラは私が来ただけでも困っているのに、夕食なんか頂いたら申し訳ない。
「ありがとうございます。夕食はまたの機会に頂きたいと思います。今日は失礼します」
そう答えて家族にお辞儀をして家を後にする。
「私も、ちょっと出てくる」
レイラは手にしていたトシンを母親に渡して、私の後を追ってきた。
「ゆき勇者様、お送り致します」
「いいよ、一人で帰るから」
「しかし……」
「それより、ここで私に会ったことは誰にも言わないで。特にサルナスには!お願い」
無理だと思うが一応、両手を合わせて頭を下げる。
「畏まりました」
そう返事したレイラを、お辞儀した状態で首だけ少し上げて見上げる。
「ヒッ!」
レイラは驚いて小さな悲鳴を上げ、ビクっと肩を動かす。
「それと、王宮以外では勇者って呼ばないで。出来れば話し方も普通にして欲しいな」
「しかし、そういう……」
言葉を遮って話す。
「いいのよ。お願いしてダメなら命令にしたらいいかしら?」
「……解りました……」
解ってないな。
まっ、いっか!
「それじゃ、帰るわ、バイバイ」
そう言って走って横道に入り、人がいないのを確認して飛ぶ。
空から見ていると、レイラは横道に入った私をキョロキョロと探している。
ごめんね。
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