第27話 職場2

 料理長が作ったトシンのスープを頂いて王宮に戻る。

 山形美緒に飛んでいるところを見られてからは、池の側に降りて歩いて部屋に戻るようにしているが、どうしても、階段を上がりたくない時は飛んで部屋のベランダに行く。


 何で部屋を三階にしたのかな?

 エレベーター生活の私には階段はしんどいのよね!

 せめて階段が動くといいな。

 エスカレーターってやつ?


 ブツブツと文句を言いながら部屋に向かっていると、ベンチで頭を抱えて座っている中野充を見つける。

 ……デ……ジャブ……?


 これは、いつぞやの時と同じだな。

 何かあったことは間違いない。

 側に行き声を掛ける。


 「中野さん。何かあった?」

 ゆっくり顔を上げて、私を見る。

 「ゆきさん」

 声に元気がない。


 中野充の横に座りもう一度聞く。

 「どうしたん?」

 彼はゆっくりこっちを見る。


 「死体見たことあるか?」

 はっ?

 死体?


 先日森で見たけど…。

 あれは、かなりエグかったな。


 「死体?」

 「そう死体」

 「……」


 中野充が私をジーッと見てくる。

 えーと……。

 「まぁ、あるけど」

 「俺も見たんだ」


 ……だから?

 「最近、護衛隊の人と仲良くなってさ。あっ、護衛隊には入ってないよ。」

 解っている。

 剣が持てないことも知っている。


 「森に行くって言うから一緒に連れて行って貰ったんや」

 まさか……

 「何があったと思う?」

 死体やろ?

 話の流れからして絶対死体やん!


 「獣に首を噛まれた死体があってん」

 やっぱり。

 「行った森には野獣がおるんやて」

 知っている。


 「亡くなった人は野獣を討伐しに行って、襲われたらしい」

 知っている。

 「野獣を倒しに行ったということはハンターやろ?そいつらが殺されたんやで」

 段々、声のトーンが上がってくる。


 「ここヤバいわ。野獣やで!」

 ん、解っているって。

 「俺、勇者やから野獣とか討伐せなあかんやん?」

 いや、しなくて大丈夫。

 てか、勇者にまだ拘ってたのか。


 「町に野獣が出てきたら先頭で戦わなあかんよな?」

 いや、出て来ないから大丈夫。

 「ゆきさん、そうなったらどうする?」

 私?


 んー?

 「町に野獣が来てから考えようかな?」

 「何、呑気なこと言うてんねん!来てからやと遅いやろ?」

 急に立ち上がり声を荒げて言ってくる。


 何なん?

 怖いな。

 「えーと……。何か聞いた話によると森からは出て来られないらしいよ」


 「……出て来られない?」

 「そう出て来られない」

 中野充はゆっくりベンチに座り直す。


 「出て……来られ……ない……?」

 二回言ったな。

 「野獣って怖いよね?私も怖いな」

 恐いと言いながら討伐に行っちゃうけど……。


 「あんな死体を見ちゃ怖いな」

 空を見上げながら中野充は呟く。

 だよね。

 私も腰を脱かした。


 「中野さん、この世界がどういう世界か誰かに聞いたことある?」

 「一応、護衛隊の人に聞いたぞ。魔法は生まれ持った力で国民全員が使えるものじゃないんだ。貴族でも魔法が使える者は重宝されるが、使えない者は屋敷でも肩身の狭い思いをしているって」

 そうなんだ。


 「それに女性は魔法が使えても生かせないって話をしていたな」

 そうなのだ。

 この国は女性の地位が低い。

 男女共に同じ魔法が使えるのに、女性の魔法は劣ると思っているのかな?

 そんなことはないのに……多分。


 中野さんの顔を見ると落ち着いたようなので、部屋に戻ることにする。

 「中野さん、それじゃ」

 手を上げて立ち上がり、ベンチを後にする。


 今日は仕事帰りにストラップを受け取りに装飾店に寄る。

 「どうかな?」

 涙の形のストラップ四個確かに。

 「ありがとう。凄くいいわ」


 代金を払って王宮に戻り、池の傍で携帯電話を取り出しストラップを付ける。

 付与する魔法は考えている。


 携帯電話に衝撃が加わると防御機能が働き、衝撃が無効化される魔法が一つ。

 携帯電話が私から一定距離、離れたら自ら私の元に戻ってくる魔法が一つ。

 この二つをストラップに付与する。

 付与魔法を考えると、石は中央から外に向かって光り、携帯電話のカバーと同化する。


 凄い。

 まるでカバーに石のアクセサリーが元々付いていたみたいになっちゃった。

 石を触るが触っている感覚がない。

 見た目は石が付いているように見えるのに、触ると何も付いていないかのようにツルツルしている。


 これで先ずは安心かな。


 指輪の武器を手に入れてから仕事の後は王宮に直行し、光の矢を機関銃のように連打する練習をしたから、光の矢が上手く打てるようになった!!

 そして今日、トシンで練習の成果をチェックするため森へ討伐に行く。

 光の矢は確実にトシンに当たるが、残念ながら連打の必要はなく矢一本で討伐できてしまった。


 数匹ゲットして王宮に飛んで帰る途中、建物から出てくる回復魔法使いのメイドを見掛ける。

 ヤバイ!

 飛んでいるところを見つかるとマズイな。

 見つかるのは山形さんだけで十分だ。


 そっと地上に降り物陰に隠れて、彼女がいなくなったら帰ることにする。

 ん?

 よく見ると彼女は泣きながら歩いている。

 どうしたのかな?

 声を掛ける訳には行かないし、放っておく訳にもいかないし…。


 どうしたものかと考えながら後をつけていると、彼女の家に着いてしまったようだ。

 尾行するつもりはなかったのに、気が付けば家まで来てしまっていた。

 周りを見渡すと知っている景色だ。

 ここって宿から近いな。 

 

 中から話し声と泣き声が聞こえてくる。

 何かあったのかな?

 気になる……。

 好奇心が……。

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