第26話 職場1

 レヴィの家を後にして宿に戻り、女将さんと隊長に住所を偽っていたことを謝る。

 セドルは昨日、北の町外れで私を探し続けていたと知ったからだ。

 

 「じゃ、一体どこに住んでいるんだい?」

 女将さんに聞かれ、まさか王宮とは言えず誤魔化した。

 「今は知り合いの所でお世話になっていて、ちょっと場所は言えなくて…。すみません」

 「訳ありだとは思ったがね。まぁ、何かあったら言っておくれ」


 あれ?

 いいの?

 私は助かるけど。


 頭を下げて洗濯場に行き、仕事に戻ると、サラが「お疲れ」と笑いながら肩を叩いてくる。

 遅れたことを皆に謝るが、全員「大丈夫」と手を振って言ってくれる。

 いい同僚達だな。


 サラは昨日のセドルの状況から、今日私は仕事が出来ないと確実に予測していたらしい。

 流石だ。

 残っている仕事を同僚と片付けて宿を後にした。


 前の職場は体調悪くても仕事は休めなかったな。

 でも、今の職場は突然休んでも、嫌な顔をせず出勤したスタッフで仕事を終わらせてくれるのよね。

 何故か。

 私に払う予定の賃金を、代わりに働いたスタッフに支払われる仕組みになっているからだ。

 

 なので、今回のように私が突然休んでも文句を言うスタッフはいない。

 有難い職場だ。


 そんなことを考えながら武器店に入る。

 「いらっしゃい」

 「こんにちは」


 「これは、お待ちしていました。出来ていますよ」

 そう言って、後ろの棚から袋を出してきた。

 袋を開けると指輪が入っていた。


 指輪?

 また、アクセサリーか。

 指輪は二等辺三角形のような形で、三箇所の角は丸くしてくれている。

 角がそのままだったら嵌めた時に痛いから工夫してくれたのかな。


 底辺を下にして中指に嵌めるとブレスレット同様、指に密着して小さくなった。

 これも、嵌めている感はなく、手に馴染んでいる。


 店主が壁の的を指し、試し打ちするように言うので、手を握り上の三角を対象物に向け、グッと強く握り矢が飛び出すイメージをする。

 すると、三角の先から光る長い物が飛び出した。

 「何?」


 早い。

 的を見ると光る矢が刺さっているが、暫くすると消えた。

 「付けているブレスレットを見て、魔力持ちだと思いました。正解でしたね」

 店主がうんうんと頷きながら言う。


 「矢が欲しいと言われましたから、魔力で矢が出るように致しました」

 凄いな。

 でも、刺さった矢が消えたのは何で?

 店主に聞いてみる。


 「魔力で出来た矢ですから、当たれば消えます。しかし、野獣へのダメージは普通の矢より威力がございます」

 へぇ、そうなんだ。

 「ありがとうございます」


 「お気に召して頂けて光栄です」

 店主に代金を払い、挨拶して店を出る。

 「また、ご贔屓にお願いします」

 この武器を使いたいから森に行こう。


 人目の付かないところから飛ぼうと思い脇道に入ると、突然子供の泣き声が聞こえくる。

 周りを見ると、前の通りで子供が膝を抱えて泣いている。

 転んだようだ。

 傍に行こうとすると、若い女性が子供に駆け寄るのが見えた。


 「大丈夫よ」

 女性はそう言うと、子供の膝の傷に手を翳し、傷を治していく。

 回復魔法?


 「ありがとう」

 さっきまで泣いていた子供が、笑って女性を見ている。

 「気を付けてね」

 「うん」

 子供は走り去って行く。


 今、回復魔法を使った彼女、確かこの世界に来た当初に私の担当だと挨拶してきたメイドだな。

 あれから会っていないけど、何度か王宮の食堂で見かけた。

 女性だから回復魔法が使えてもメイド業務しか出来ないこの世界。


 彼女は回復魔法が使える仕事をしたいと思っているかな?

 それとも、この世界のしきたりだから特に考えないのかな?


 そんなことを考えながら森に向かう。

 森の入り口でトシン発見!

 早速、指輪をトシンに向けてグッと強く手を握り矢が飛ぶイメージをする。

 すると、指輪の先から光の矢が飛び出しトシンに命中した。

 

 一度使った魔法は、イメージ出来るから次からは簡単に使える。

 今回もそうだ。

 店でイメージして使ったことを考えながら構えると、簡単に矢を出すことが出来た。

 トシンの額に当たった光の矢は暫くして消えたが、トシンの額からは血が流れている。

 

 眼石と心石を取ったら場所を移動してトシンを討伐する。

 何匹か討伐して考える。

 この矢を二本とか三本とか出せないかと。

 よし!やってみよう!


 矢を三本放つイメージをして目の前の木に向けて放ってみる。

 三本出たが木に当たったのは一本だ。

 真ん中の矢以外は木の横を通って行った。

 考えたらそうだよね。


 三本同じところに当たる訳ないか。

 それより連打する方が役立つかな?

 もしくは、三本放って時間差で同じところに命中させるか!

 あっ、それいいな。

 帰って練習しよう!

 

 トシンの石は収納ボックスに入れ、毛が付いたままのトシンは宿に持って行って料理長に手渡す。

 女将さんも料理長も喜んでくれた。

 トシンの前足はカットして返してくたが、血が滴るそれをどうするか考えて取り敢えず渋々収納ボックスに入れる。


 ナイロン袋とか欲しいな。

 収納ボックスが流血状態にならないのは前回経験済みだから心配はしていないが、やっぱり気持ち悪いかも。

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