第24話 野獣4
店主が鱗をカウンターに置いたのを見て話かける。
「一つ武器を作って欲しいです。他は買い取って下さい」
「どんな武器が欲しいのかな?」
どんな武器?
「矢のように飛ぶ武器かな?野獣が倒せる物がいい」
「解りました。ではこれで作らせて頂きます」
爪を取って答えた。
爪と牙は一個ずつ、鱗は二枚収納ボックスに残して後は売った。
「こんなによろしいのですか?」
鱗を次々手に取りながら聞いて来る。
鱗ってそうとう貴重なようで店主の顔がニヤケっぱなしだ。
問題ないことを伝える。
「よろしければ、これからも当店に直接売りに来て頂けませんか?代金は弾みます」
「こちらこそよろしくお願いします」
武器店と知り合いになれば、これから先、役に立つだろうしね。
装飾店の店主、ジェフが言った通り、かなりの金額になった。
代金は収納ボックスに入れて、防御壁を纏って王宮に戻って来たが、飛んで帰ってきたから襲われる心配はなかったかも。
あっ、ウォットが話せるか聞くのを忘れたな。
覚えていたら明日聞いてみよう。
翌日、セドルが宿に飛び込んでくる。
バン!!
「母さん、ゆきさんは?」
慌てた様子でカウンターに走り寄ってきて聞く。
「おかえり。今回は早かったね」
「なぁ、ゆきさんは?」
カウンターから身を乗り出して同じことを聞いてくる。
「今日は休みだよ」
「休み??」
泣きそうな顔をしながら、大声で聞き返す。
「ラマイルの弟のレヴィが死にそうなんだ。ゆきさんに治療して欲しいんだよ」
「なんだって!レヴィが?どうして?」
「カカラルの森でスネージャーカルに刺されたんだ」
スネージャーカルは毒を持っている。
ジワジワと神経がやられ、時間と共に筋肉も侵され呼吸困難になり、最後は心停止を起こし死に至る。
私は後に、嘘の住所を女将さんに伝えていたことを後悔することになる。
町の外れに住んでいると伝えていた為、セドルは町外れに向かって馬を走らせる。
私はといえば、この時間まだ王宮で遅い朝食を取っていた。
いや、ほぼ昼に近いな。
昼過ぎに装飾店へ収納ボックスが出来ていないか立ち寄る。
「こんにちは」
「いらっしゃい」
店主は奥から加工した石を持って来てカウンターに置いた。
ブレスレットに付いている形と同じだ。
ブレスレットは外すなと言っていたけど、どうやって付けるのかな?
「この石はどこに付ける?」
どこに?
考えていなかったな。
ブレスレットを見つめ、今ある石の横に付けて欲しいと指をさして伝える。
収納ボックスは並んでいる方が使いやすそうだからね。
店主が私の腕を掴み、指をさした場所に石を近付けると、丸く加工されている所が大きな丸になって広がっていく。
何?
その大きくなった丸い所に石を置くと、石を包み込むように赤色ブレスレットの丸みが小さくなり、石が固定された。
「凄い」
驚いた。
まさか、こんな風に石が付くとは思わなかった。
「これが魔導具だよ。でも、魔力がないとこんなにスムーズに付けられないけどな」
「付けられなかったらどうするの?」
「付けられなかったら、単体で付けられるように加工し直すよ」
そうなんだ。
魔導具か。
凄い。
「ブレスレットが受け入れていいと判断したら、こうやって石を増やしていくことが出来る。そういう風に作ったからな」
「凄い!凄すぎる!ありがとう!」
これから先、どんな魔道具が必要になるか解らないから、こういうのは助かる。
その頃セドルは、女将さんに聞いた場所で私を探している。
探している場所はポツンポツンと小さな家が数件あるだけで、お年寄りが多い。
若い者は殆どが町に出ている。
「本当にこんな所に住んでいるのか?」
この世界には履歴書が無いから、私は宿に就職する時、女将さんに住所を聞かれ、『町外れの先に住んでいて、私以外人は殆どいない』と伝えていた。
方向は解らないから適当に『北』と答えたのだ。
だから、セドルは今、北の外れで私を探している。
人は少なく地区はグルッと一周してもそう時間はかからず、私がいるかいないかは直ぐ解るのに、セドルは何周も周り、私のことを聞いている。
勿論、村人からの返事は『解らない』と返ってくる。
探し始めて数時間、辺りが暗くなってきたところでセドルは捜索を諦める。
「もう、戻らないと」
レヴィの命の時間はそう長くないだろうから、戻って彼の傍にいようとセドルは決め帰路につくことにした。
翌朝、私が出勤すると同僚のサラが飛んできた。
「おはようございます」
「ゆき、昨日セドルさんが探していましたよ」
「えっ?隊長が?何の用?」
セドルはユールイジ団の隊長をしている。
搬送中に事故にでもあったのかな?
まさか、また野獣に襲われたとか?
まさかね。
サラと掃除道具を取りに行く途中で名前を呼ばれる。
「ゆきさん!」
呼ばれた方を振り向くとセドルが走って来る。
「おはようございます」
挨拶の途中で腕を掴まれ引っ張ってどこかに連れて行こうとする。
「直ぐ来てくれ」
「えっ?」
横にいた同僚のサラは手を振ってこっちを見ている。
おいおい。
今度は何?
また、森に行くとか?
引っ張る手を払い退ける。
「何?私、今から仕事だから、用事は終わってからにして!」
「それじゃ、遅いんだ。一緒に来てくれ」
再び腕を掴まれ、振り払おうとするが力が強く今度は振り解けない。
そのまま馬に乗せられ、一軒の家の前で降ろされる。
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