第23話 野獣3

 四人共、首から血を流し倒れる。

 かわいいと思った子が、今は凶暴な野獣と化している。

 いや、初めから野獣だ。

 足が竦んで動かない。

 魔法感知でこの子達がこっちに来ていたことは解っていたが、まさか攻撃してくるなんて。


 一応、私の周りには防御壁がある。

 『助けてくれてありがとう』

 えっ?

 初めに会った可愛い子が頭を下げた。


 続いて、他の三匹も頭を下げる。

 『こいつらは仲間を殺そうとした。生かしてはおけない』

 こっわ!

 『あんたには感謝している。何かあったら力になろう』

 そう言うと頭を下げてどこかに行ってしまった。


 え~と……。

 この死体はどうするの?

 その場に座り込んでイーエルを見る。


 気持ちを落ち着けて、イーエルの傍に四つん這いで行き、眼石と心石を取り出す。

 そう言えば盗賊から取った袋の中身は何が入っているのかな?

 死体が横にあるのに非常識だと思うが、ゲットした物は確認しないとやばい物が入っていたら問題が増える。

 袋を収納ボックスから出して中を見ると、イーエルやオドガザスの石が入った袋と毛皮・肉、そして爪と牙がある。

 

 取り敢えず装飾店に持って行くことにしよう。

 死体の処理も解らないから店主に聞かなきゃ。

 イーエルは解体出来ないので、そのまま収納ボックスに入れる。

 そう言えば、大蛇もそのまま入れたな。

 ボックス内が流血状態になっていなきゃいいけど。


 店に入って店主に四足動物が生きたまま捕まっていた話と、捕まえた人が攻撃されて亡くなったことを話す。

 「生きたまま捕獲されるのはウォットだな」

 ウォット?

 生きたまま捕獲?

 生きたままの捕獲があるの???


 「彼らは森の奥で生活している野獣で滅多に会えない。生け捕りにしたら貴族が高く買ってくれただろうな」

 「貴族が?」

 生け捕りの野獣を貴族が買う?

 新鮮な肉を買ってまさか、生で食べるとか?

 野獣の生肉か……、ムリだな。


 「あぁ、ウォットが飼い主を気に入ればそこに居着くが、気に入らなければ逃げる」

 飼う?

 食べるじゃなく飼う?

 そして逃げる???

 この国の貴族は、野獣をペットにするの?


 野獣が逃げたら大惨事が起こるだろうに。

 「貴族は野獣を檻に入れないの?」

 「ははは……。入れるに決まっているだろう。あいつらは頭が良くて、魔法に優れているから魔法の檻に入れても、魔法式を解読して逃げるのさ」


 魔方式を解読?

 そんな凄い野獣をペットにするって、頭おかしいの?

 散歩中に気に入らないことがあったら、直ぐ森に逃げて行くのかな?

 いやいや、散歩中に飼い主が殺されるかもしれないよね。


 「逃げる時に人を襲わないの?」

 「悪さをしなければ人を襲ったりしないよ」

 人を襲わないって…。

 今日、殺していたけどね。

 まっ、あれはあいつらが悪いか。


 「飼っている人いるの?」

 「三代前の王様が飼っていたよ」

 三代前の王様?

 「昔は野獣が町で暴れることが多くて、その度に兵士が野獣狩りをしていたんだ。その時、ウォットも当時の国王と共に野獣退治に協力していたよ。物語にもなっている」

 

 物語……。

 その国王は野獣を飼う程の魔力持ちだったってことか。

 「その国王が森の周りに、野獣が嫌いな薬草を植えたから町に野獣が来なくなって、森に閉じ込められているんだよ」

 その国王凄い。


 あれ?ウォットは野獣なのに平気なのかな?

 「ウォットも薬草が苦手なら、逃げても森に帰れないでしょう?」

 「ウォットに薬草は効かないよ。普通に通って仲間に所に戻るだろう」

 へぇ、そうなんだ。

 って、えっ?

 普通に仲間の元に帰る??


 「じゃ、あの野獣は森の出入りが自由ってこと?」

 「そうだな。そうなるな」

 おいおい、呑気に返事しているけどヤバイことやん。


 知能が高くて、魔力も優れているって言うし。

 森の奥に行くほど魔力が強い野獣が住んでいるって言っていたから、ウォットも強いってことだろうし。


 一瞬で人は殺られるし。

 そんな野獣が自由でいいのか?

 この国はどうなっている?


 「大丈夫だよ。彼らは三代前の国王と締約をしているから。危害を加えてこないし、人間は襲わない」

 信用していいのか?

 相手は野獣だよ。

 ってか、今日襲っていたし!


 何度も言う!

 今日襲っていたぞ!!


 「それに滅多に森の奥から出てこないよ」

 何で今日は出て来たん?

 「大蛇から逃げて、森の入り口まで来てしまったんだろう」

 「大蛇は倒せないの?」

 「さぁ?」


 ウォットのことは店主もよく解らないようだ。

 存在も物語で知っている程度らしい。

 取り敢えず、あの子達が噛み殺した死体を相談する。


 死体は、店主が町の警備兵に知らせてくれると言ってくれた。

 町の警備兵は王宮勤務の者が交代で行うから魔法が使える!

 森で遭難者を探したり、野獣に襲われた死体の回収に行くが、訓練を受けているから野獣に殺られることはない。


 ウォットの話を聞いた後、鱗について聞く。

 鱗は武器店か家具店に持って行くか、換金所を進められる。

 かなりの高級品だから帰りは気を付けるように注意を受けた。

 高額な取引になるらしい。


 町中で防御壁を作る羽目になるとは。

 解体していない大蛇やイーエルはどうしたらいいかも聞く。

 イーエルはルーベンさんに持って行って欲しいと言われ、大蛇は換金所が引き取ってくれると教えてくれた。


 早速、ルーベンさんの店で解体前のイーエルを見せる。

 おぉ~、鮮度は保たれている。

 収納ボックス凄い。


 毛皮の袋を出して一緒にルーベンさんに買い取って貰った。

 次はチャドさんの所に肉を持って行く。

 ここでも、盗賊から奪った肉を見せて一緒に買い取って貰う。

 換金所で商品を買うと手数料を取られるから、直接買えると有難いと前に言っていたから、二人とも凄く喜んでくれた。 


 大蛇を換金所で換金してから、武器店に向かう。

 店主、お勧めの店で爪や牙、鱗を見て貰う。

 「素晴らしい。これは買い取らせて貰っていいのかな?」

 カウンターに出した鱗を手に取り、上下左右に動かしながら見ている店主の眼は輝いている。



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