第22話 野獣2

 バン!

 違う方向の防御壁にも大蛇がぶつかっている。

 やばい、何匹来るの?


 防御壁が破られるのも時間の問題だな。

 ここは逃げるとしよう。

 四足動物を見るとブルブルと震えている。

 そういえば大蛇に追われていたな。


 自分の周りに防御壁を張って、四足動物が震えてもたれている防御壁を解除すると、コロンと転がった。

 やばい!チョーかわいい!

 四足動物は直ぐ起き上がって走って来て、私の周りに張った防御壁にぶつかる。

 バン!


 なんか、ごめん。

 両手を広げて壁にしがみ付いてくる。

 迷ったが、私の周りの防御壁を解除する。

 すると、四足動物は駆け寄って来て、膝の上に乗りブルブル震えながら抱きついてくる。


 ヤバイくらいにかわいい!

 私は、このかわいい四足動物を抱き上げて飛ぶ。

 空から大蛇を見たら、防御壁を登って上から中に入ろうとしているじゃないか!

 大蛇に合ったらドーム型に防御壁を張らないといけないことを学んだ。


 そのまま森の入口に降りる。

 四足動物を降ろして帰ろうとしたら、後ろから抱きついて来た。

 何?

 まだ、ブルブルと震えている。


 その時、魔法感知に馬車が引っ掛かる。

 森にいる間は、私を中心に数千メートル程、感知魔法を張っている。

 私は四足動物を抱き、木の枝に飛び上がり様子を伺う。


 荷台に四足動物が三匹、手足に鉄の錠が嵌められ横たわっている。

 捕まったのか。

 『助けて』

 四足動物を見ると目があった。


 「あの子達を助けるの?」

 四足動物は大きく頷いた。

 どうやって助けるか?

 助けるには、まず馬車を止めないといけないな。


 いつもは野獣に対して、圧縮した風魔法を放っているから力加減を考えたことがなかった。

 だから、人に放つことはできない。

 馬車の車を狙ってみるか?

 見事命中し馬車が傾く。


 馬車が倒れて馬が怪我をしてはいけないので、直ぐに手綱に向けて圧縮風魔法を放ち、手綱を切って馬を逃がす。

 残った馬車は転倒し、人も荷物も投げ出される。


 腕や足を摩りながら馬車に乗っていた人達が起き上がり、キョロキョロと周りを確認し始める。

 風魔法を使って彼らの側に落ちている枝を浮かせて、頭に一撃を加えると彼らは次々その場に倒れた。


 風魔法の加減が解らないから、そっと彼らに近寄り息があることを確認してから、倒れている四足動物の側に急いで行き、意識がないこの子達の息も確認する。

 生きている。

 抱いている子を仲間の傍に降ろすと、顔を埋めてすり寄っている。

 家族かな?


 手足に付いている鉄の錠は、このナイフで切れるかな?

 動物を傷つけないように、ゆっくりナイフを当てる。

 当てた所が真っ二つに割れた。

 このナイフ凄すぎ。


 錠が外れても動かない。

 こんなかわいい子に何て酷いことをするの!

 かわいいと言っても野獣だけどね。


 討伐対象なのは解っているが、震えているこの子を見ているとムカつくので、側に転がっている荷物は頂くことにし、収納ボックスに入れる。

 意識が無い動物達は風魔法で浮かせ、空を飛んで安全な場所へ移動する。

 空が飛べるって楽だな〜。


 森の中の少し開けた場所に動物達を寝かせる。

 何か薬を盛られたのかな?

 錠は外したから、体の自由を奪うものはない。


 回復魔法をしてみようか?

 そう考え、回復魔法で治療をしたら、ムクッと三匹が起き上がった。

 私、襲われるかも?

 とか、考えていたら、バンッと、三匹とも防御壁に体当りしてきて後ろにコロンと倒れる。

 「……」


 念の為、私の周りに防御壁をしていて良かった。

 あまり関わらない方がいいな。

 私は空に飛び上がり、浮いた状態で下を見ると、四匹がこっちを見上げている。

 軽く手を振って、その場を離れて行く。


 王宮に帰ろうとしたら、野獣に襲われている人達が魔法感知に引っ掛かる。

 今日は忙しいな。

 急いで襲われている人達ところに向かうと、彼らはイーエルが振り下ろす腕から逃げるのに必死の様子だ。


 近くの木の上に降り立ち、圧縮風魔法をイーエルの額に放つ。

 見事命中!

 イーエルが地面に倒れる。


 「大丈夫ですか?」

 木から降りて、襲われていた人達に声を掛ける。

 「助かったよ」

 「あんた凄いな」


 見たところ馬車はないようだ。

 まさか歩き?

 「馬車はどこですか?」

 「盗賊に盗られたよ」


 盗賊?

 「今日は珍しいウォットが手に入ったのに、全部持って行かれたよ」

 「ウォット?」

 「これ位の白い野獣だよ。貴族が高値で買ってくれる野獣だ」

 手でウォットの大きさを表してくれた。

 

 「薬を使って体を麻痺させて、生け捕りにしたのに。残念だ」

 「あれは高く売れたのに」

 あんたたちが、あのかわいい子に薬を使ったのか。

 

 「君、このイーエルを譲ってくれないか?」

 「今日の収穫品は全て盗られたから頼むよ」

 譲るのはいいが、こいつらには譲りたくない。

 「私も石が欲しいのよ」


 「先にこのイーエルを見つけたのは俺達だぞ」

 そう来たか。

 その時、突然一人が大声を出して倒れた。

 さっきの四足動物が彼の首に噛みついている。


 えっ?

 何?

 立て続けに他の三人も噛まれ倒れた。



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