第21話 野獣1

 部屋に戻っても、二人は椅子に座ったままで、何も話さずテーブルを見ている。

 「大丈夫?」

 声を掛けると、二人はゆっくりこっちを見る。

 手からお湯を出してお茶を作り、二人の前に置く。


 「手からお湯?」

 山形美緒が呟いた。

 「水魔法と火魔法を合わせて……」

 「綺麗の?」


 えっ?

 「あ……。手から出るから汚いかな?」

 「魔法のお湯の方ね」

 「魔法のお湯?」


 「それ、どっから出ているの?」

 「さぁ?」

 「そんな事どうでもいいだろう!!」

 突然、中野充が大声で怒鳴ってテーブルを叩く。


 「そんな事はどうでもいいんだよ!」

 二回怒鳴ったよ。

 「中野さん?」


 「さっきのは何だよ。一振りしただけで、何で木があんなに倒れるんだ?」

 横に座っている、山形美緒に怒鳴る。

 「私に怒鳴られても…」


 「それにゆきさんも、何で倒した木を元通りに出来るんだ?」

 私の方に顔を向けて怒り口調で言う。

 「私?あれは回復魔法を風魔法で飛ばして…」


 あれ?

 確か、中野さんと会った時、短剣を振っていたけど周りの木は切れていなかった。

 でも、山形さんが短剣を振ったら木が切り倒された?

 しかも、かなり広範囲に。

 何で?


 勇者って得意分野が決まっているのかな?

 「山形さん、剣を振った時、何を考えて振った?」

 「リリヤン様のように格好よく切れたらいいなって」

 リリヤン?

 中野充と同時に一瞬眉間に皺がよる。


 「ここに来てからはテレビないし、ネットないし、することなくって……」

 働けよ。

 「妄想しかできないからさ」

 妄想?


 中野充の顔がドンドン嫌そうな顔になる。

 山形さんってちょっと変わっているよね。

 でも、リリヤンのように切りたいって思っただけであんな切れ方する?


 そんなことを考えていると携帯電話を出して写真を見せてくる。

 「この人よ!彼女みたいに格好良かったかな?」

 胸の前で両手を握り聞いて来る。

 写真は映画のキャラクターか?


 ……写真?

 携帯電話の写真?

 ん?

 携帯電話?


 私の携帯電話には魔法書を撮った写真が入っている。

 あれ?

 まさか?


 「中野さんの携帯電話にはどんな写真が入っているの?」

 「写真?俺、電話買ったところだからたいした物は入ってないよ」

 何だろう。

 変なこと考えちゃっているかも。


 私のレベルって未だに0だ。

 まさかと思うけど、勇者は携帯電話?

 イヤイヤ、ないない。

 ないと思うが否定仕切れない。


 「お姉さん?」

 山形美緒が顔を覗き込んでくる。

 「えっ?」

 私は、下を向いて考え込んでいたから話を聞いていなかったが、中野充がウンザリと言う顔をしているのを見ると、山形さんがリリヤンを語っていたのだろう。


 携帯電話の力が私達に影響を与えているなら、電話が壊れたらどうなるの?

 二人は、レベル上がったのかな?

 聞きたいけど、聞き返されたら困るから聞けない。


 翌日、イーエルの心石を持って装飾店に行く。

 携帯電話に防御魔法を付与したストラップを付けようと思ったからだ。

 「いらっしゃい」

 「こんにちは」


 収納ボックスからイーエルの心石を出しカウンターに置く。

 「これで、ストラップは作れる?」

 「ストラップ?」

 「えーと、鞄に付ける小さな飾りみたいな物」

 親指と人差し指を開いて、大きさを伝える。


 「作れるけど、何個いるんだい?」

 「この石で何個作れる?」

 「四個は作れるよ」

 「じゃ、四個お願いします」


 私が付けて上手く防御出来たら二人にも渡そう。

 形は涙の形にして貰った。

 角があるより丸い方がいいし、丸よりも涙の形の方が可愛いからだ。

 石を預けて店を出る。


 さぁ、今日も、森に行こう。

 先ずはトシンで血抜きの練習だ。

 魔法感知で森をチェックし、野獣を探す。


 ん?

 何か小さな四足動物が大蛇に追いかけられている。

 飛んで大蛇の方に行ってみる。

 発見!木の上から圧縮した風魔法を放ち、見事、大蛇の頭に命中!


 周りに防御壁を作って、収納ボックスからナイフを出し、目玉を取る。

 続いて、心石を取ろうとして気付く。

 心臓何処?

 背中には大きな鱗が付いている。


 この鱗って取れるかな?

 ナイフを鱗の隙間に差し込んでみる。

 凄い!

 差し込んだだけで鱗が取れた。


 簡単に取れるから作業もはかどる。

 全ての鱗を取り終えて、空に鱗をかざして見るとキラキラと角度によって違う色が透き通って光る。

 綺麗!


 鱗を収納ボックスに入れ始めると、ドンッと音がした。

 見るとさっき追いかけられていた四足動物が防御壁にへばり付いてこっちを見ている。

 犬?

 狐?


 かわいいがあれも野獣だ。

 防御壁があるから、野獣は無視して引き続き鱗を回収する。

 『逃げて』

 ん?

 周りを見るが誰もいない。


 ドンッと音がする。

 『逃げて』

 防御壁を四足動物が叩いている。

 その時、感知エリア内に大蛇が入って来た。


 防御壁をもう一重張る。

 防御壁と防御壁の間に四足動物がいる形になった。

 蛇の肉は食べられるのかな?

 よく見ると、鋭い爪を持った前足がある。


 足、あるのね。

 爪を取って、ボックスに収納する。

 バン!


 見ると、外側の防御壁に大蛇がぶつかったようだ。

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